更新日:2021年06月06日 05:39
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厳罰化はかえって逆効果?専門家が「大麻使用罪創設」に反対する理由

私たちは大麻使用罪の創設に反対します

 2021年6月2日、厚生労働省記者クラブにて声明「私たちは大麻使用罪の創設に反対します!」の記者会見が開かれた。  登壇したのは薬物依存症の経験をもつ風間暁氏、関西薬物依存症家族の会代表、当事者代表の山口勉氏(オンライン出席)、立正大学法学部教授の丸山泰弘氏、特定非営利活動法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣氏、筑波大学医学医療社会精神保健学教授・精神科医の斎藤環氏(オンライン出席)、そして司会はギャンブル依存症問題を考える会代用の田中紀子氏というメンバーだ。
私たちは大麻使用罪の創設に反対します!

左から司会の田中紀子氏、風間暁氏、立正大学法学部教授の丸山泰弘氏、「ぷれいす東京」代表の生島嗣氏

 現在、厚生労働省により大麻使用罪を創設する動きが検討されている。しかし、この会見では大麻使用罪創設に反対する声明が出された。  大麻をはじめとする違法薬物は現在、薬物使用者をゾンビや死神に例えたポスターが自治体のコンクールで賞を与えられ、薬物は恐ろしいものなのだと世に知らしめされている。しかし、「このような運動は薬物依存者への偏見を助長する」と、専門家たちは語った。これらのポスターは一度でも薬物を使うと人間でなくなってしまうという脅しをかけているが、実際、初めて使用した人の多くは一度では快感を得ることは少なく、そのため回数を重ねるごとに依存症に陥っていくのだという。  また、薬物使用者への厳罰化は逆効果であることが世界や日本の研究で明らかになっている。そのため、使用罪を作ろうとする動きに、多くの依存症団体や精神科医、研究者たちが声を上げている。
私たちは大麻使用罪の創設に反対します!

オンライン出席の山口勉氏(右)と斎藤環氏(左)

厳罰化よりも正しい教育

 家庭での虐待や親の引き起こした加害事件に巻き込まれて加害者家族になり、そこから誰にも助けてもらえず非行グループに居場所を求め、薬物を使用するようになった風間氏は、「よくない存在」としてレッテルを貼られてますます追い詰められていったという。そして、孤立や苦痛を和らげるために薬物を使用し、依存症に陥ってしまった。  依存症は脳の病気である。しかし、風間氏は薬物を使っていた当時、自分が脳の病気であるという自覚が全くなかったという。仮に病気だと認めた場合でも医者に行けば通報されてしまい、トラウマになっている親の介入を考えると足がすくみ、もっと薬物を使いたくなった。そんな彼女を周囲の大人たちは強く非難した。  その結果、薬物を過剰摂取して生命の危機に陥り、そこから医療と福祉に繋がることができた。それからは回復のために「今までずっとつらかったね」と福祉関係者に声をかけてもらえ、ようやく救われたという。そして彼女はそれ以来薬物を10年間絶ち続けている。  風間氏は病院に行って通報されることを恐れたが、精神科医の斎藤環先生によると「医師による通報の義務はない」そうだ。風間氏は運良く福祉と医療に繋がることができたが、そうでない当事者もいる。  そんななか、風間氏は「当事者が援助希求しやすい構造にしなくてはいけませんよね。当事者が回復したいと思ったときに門を叩けるような、仲間たちと一緒に回復へ向けた日々を送っていけるような、そんなスティグマのない世界です」と語る。  風間氏は良い医師に巡り会えたが、一方で「理解のある医者に巡り会えることができるかどうか難しい面がある」と、司会の田中氏は語った。  また、丸山氏は「薬物依存問題は性教育に似ている。きちんと性教育をしていないから望まない妊娠をしてしまうことがあるのであり、薬物についても正しい教育をしていかねばならない」と述べた。  今までは「ダメ、絶対」というキャッチフレーズで語られてきた薬物依存症問題だが、「ダメ、絶対」のほうがダメで偏見を助長し、当事者たちは苦しみ続けることになってしまうのである。 取材・文/姫野桂
フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ、。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)、『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)『生きづらさにまみれて」(晶文社)、『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)
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