痴漢や万引きをやめられない人の心理とは?依存症治療のプロ・斉藤章佳氏に聞く
精神保健福祉士・社会福祉士。その資格名は聞いたことがあっても、具体的にどんな仕事なのか知らない人は多いだろう。アジア最大規模といわれる依存症専門外来の榎本クリニックに約20年間勤務する斉藤章佳氏は、アルコール依存症を中心にさまざまな依存症治療に携わっている。
近年は『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(共にイースト・プレス)、『「小児性愛」という病』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方』(集英社)などの専門書を立て続けに出版。アルコールだけでなく、痴漢や万引も治療が必要な依存症であることを啓蒙し続ける依存症問題のインフルエンサーとして、現在注目すべき人物の一人だ。人はなぜ依存症になるのか。最前線の現場を見つめる専門家に聞いた。
――そもそも、人が何らかの依存症になるきっかけはなんですか?
斉藤:依存症は、ストレスへの不健康な対処行動が習慣化し、やがて繰り返すうちにそれが本人の意志の力ではコントロールできなくなる病です。養育環境や、災害などのトラウマ体験、遺伝的要因などさまざまな問題が複雑に関係しています。
人は、心理的苦痛を回避できるようなモノや行為によって脳からドーパミンが過剰に分泌される体験をすると、苦痛が一時的に緩和される一方で、やがて報酬系に誤作動が生じ、それがやめられなくなっていくのです(負の強化)。他には、ビギナーズ・ラックが依存の引き金になってしまうこともあります。
――ビギナーズ・ラックとは?
斉藤:例えば痴漢の場合、仕事でストレスが溜まっている人が、最初は満員電車で本当にたまたま女性のお尻に触れてしまい、それがストレスを吹き飛ばしてくれる強烈な刺激として脳に刷り込まれることで、次からは意識的に触るようになる。万引(窃盗症)も最初に偶然うまくいった成功体験を忘れられずに、繰り返すようになってしまうケースがあります。
――依存症に陥ると、自分の中で「してもいい理由」「やめない言い訳」をつくってしまうそうですね。
斉藤:痴漢や盗撮の性依存症者は、痴漢や盗撮できる状況なのにしなかったとき「男ならやるべきだったのにもったいない」と考えるそうです。「女性も痴漢を望んでいると思った」と言う人もいます。
嗜癖行動を継続するための都合のいい認知の枠組みで、“認知の歪み”といいます。彼らの認知の歪みの背景には「男らしさ」「女らしさ」など私たちが前提として持っている価値観としてのジェンダー規範が影響していることも多いんです。
依存症治療プロが明かす[やめたくてもやめられない]の真実
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フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ、。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)、『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)『生きづらさにまみれて」(晶文社)、『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)
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