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病院に通っても覚せい剤がやめられない男の悲劇<薬物裁判556日傍聴記>

何回も「お酒のせい」と主張

 生活保護受給者の被告は中毒者にお決まりのコースで覚せい剤に再度手をつけます。「しょっちゅうやっていたわけでは」「仕事をしているときはやらなかった」「(覚せい剤の)副作用で精神病院に通院していた」。それでもまた手をつけてしまったのは、やはり「お酒のせい」だと、彼は言います。 弁護人「で、その次に使ったのが今回ということですかね?」 被告人「はい」 弁護人「3年弱くらいは覚せい剤を使わないで過ごせたんですよね? どういう風にして覚せい剤を使わないようにしてこれたんですか?」 被告人「わからないです」 弁護人「こういうことが理由でガマンできましたみたいなのはないんですか?」 被告人「周りの人間でヤッてる人間がいるんですけど、そういうのに誘われたりしてたんだけど、断ってきた」 弁護人「病院に行っていたのも理由になるんですか?」 被告人「はい」 弁護人「どうして今回使ってしまったんですか? 覚せい剤を」 被告人「それがわからないんですよ。使ったか使ってないかなんていうのは。酒飲みすぎたっていうのは覚えてるけど、誰が来て、誰が持ってきて、自分が最初から持っている物じゃないから、誰かが持ってこないと手に入らないわけでしょ?」 弁護人「うん。具体的にはもらったところは覚えているんですか?」 被告人「覚えていないです」 弁護人「どういう状況でもらったんですか?」 被告人「いや、覚えていないです」 弁護人「それもわからない」 被告人「酒飲んで酔っぱらって。刑事さんに酔ってる状況を教えてくれって言われて説明をしたのは覚えています」 弁護人「説明したのは覚えている?」 被告人「はい。はっ!? と思ったら、警察の留置場に入ってて。どうやって入ったのか、わからなくて、何で留置場にいるんですか? って聞いたら、夜中、外で騒いだりしてたというようなことを聞いたのは覚えています。」 弁護人「覚せい剤を使って幻覚幻聴はありましたか?」 被告人「幻覚幻聴ですか。ありますねえ」  仮に誰にもらったか覚えていないというのが入手ルートを隠すための嘘としても、泥酔して覚せい剤を摂取し、気付いたら留置場では、自身をコントロールできているとはとても言えないでしょう。 弁護人「今後も使い続けちゃうと、これどうなっちゃいますかね?」 被告人「ボロボロになってしまいます」 弁護人「二度と使わないためにはどうしたらいいですか?」 被告人「全部の事件に酒が絡んでいまして、酒をやめないとダメだなと思いました」 弁護人「覚せい剤の精神病の治療はどうしますか武里医療センターへの通院は継続しますか?」 被告人「はい」 弁護人「お酒の原因もあると今おっしゃっていましたけど、具体的にはアルコール依存症みたいな感じなんですか?」 被告人「たぶん」 弁護人「それで記憶力とかが減っちゃったりしているんですか??」 被告人「そう思います。お酒やめるしかないですね」 弁護人「どうやってやめるんですか?」 被告人「強い意志を持ってやめます」

根本的な原因に向き合う気がない人間の“強い意志”とは

 断続的に覚せい剤を摂取している印象の被告ですが、前回の逮捕からは時間が経っていることもあり、判決には執行猶予がつきます。判決の後、被告は嬉しそうに大きな声で「ありがとう」と言い、弁護人に両手で握手を求めていました。判決は以下。 裁判官「(前略)主文。被告人を懲役2年に処する、未決勾留日数中30日を、その刑に算入する。この裁判が確定した日から4年間この執行を猶予する。以上が主文です。つぎに理由を述べます。当裁判所が証拠により認定した罪となるべき事実は起訴状に記載された公訴事実と同じです。その事実に相当法条を適用のうえ、主文のとおりの判決としました。なお訴訟にかかった費用は払わなくて結構です。  主文のような刑にした理由の要旨ですけども、覚せい剤依存の治療の最中に覚せい剤を使っていることからすると、依存性は、なお高いと思います。しかしながら事実を認めていますし、前刑終了後10年以上経過しておりますので、2年6ヶ月の求刑でしたが、2年に減らして、猶予期間、執行猶予にすることにしました。  ですので、今すぐ刑務所に行く必要はありませんが、猶予期間の4年間に何か罪を犯して刑に処されると、執行猶予が取り消させて刑務所に行きます。その場合は、いま言渡した2年に加えて、新たに犯した罪のぶんも刑務所に入りますから、相当長期間刑務所に入ることになりますので、そのようなことがないように気をつけてください。  それから4年が過ぎたのちも、4年経ったから大丈夫だというわけではなくて、近いところで何か犯罪をすれば、その場合も刑務所に行くことになります。その場合も執行猶予ではなくて刑務所に行くことになると思いますので、気をつけてください。この判決に不服がある場合は控訴することができます。その場合は、東京高等裁判所宛の控訴申立書を明日から14日以内に、この裁判所に提出をしてください。以上で終わります」    ***  被告は「お酒のせい」でこうなったと繰り返すが、検察官による被告人質問時「お酒の治療に関して具体的に何も考えてないのか」と聞かれた際には一言「はい」と答えただけだった。これに対して検察官は「以上です」と質問を打ち切る。そこには、「何を言っても仕方ない」という徒労感が余韻のように濃密にわだかまっているようだった。根本的な原因に向き合う気がない人間の強い意志とは、果たしてどんなものなのだろうか。 <取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
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斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。(https://note.com/so1saito/n/n6a511a399ad7

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