更新日:2023年04月27日 10:48
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薬物裁判で「これは本当に尿なのか?」と熱く議論。弁護士はお茶を出したASKAの事例も出してきて…<薬物裁判556日傍聴記>

 覚せい剤、大麻、MDMA……有名人の薬物事案での逮捕が相次いでいる。年末に向け、まだ有名人の摘発があるだろうという報道をいくつか目にしたが、実際はどうなのか。「薬物」と「著名人」の組み合わせはインパクトがあり、メディアも好んで取り上げる。  しかし、ネットで拡散されるそれらの記事に対しては単なる批判目的のコメントも多く、薬物の危険性自体よりスキャンダラスな面が強調されすぎているようにも見える。実際、薬物事案の裁判を556日に渡り傍聴し、その法廷劇の全文を書き起こした斉藤総一さんの手記を読むと、判決は似たり寄ったりでも、薬物事件にはさまざまな顔があることがわかる。  今回の被告は覚せい剤の使用と大麻の所持容疑で逮捕された人物。被告の尿からは覚せい剤の成分が出て、部屋からは100g近くの大麻が見つかった。さらに被告は過去にも覚せい剤取締法違反により逮捕歴があり、逮捕時も保護観察中だったという。つまり、心証は「真っ黒」だ。  当然のようにすんなり判決が下されるものかと思いきや、この裁判の担当弁護士はそうはさせなかった。法廷に登場したのは、扇子片手にシルクハットを被った舌鋒鋭い弁護士。まるで芝居か?と見紛うキャラの立ったいでたちだが、彼の弁護もまさかの方向に進んでいった……。              ***

斉藤総一さん

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

部屋から大麻が見つかったが、そのことを知らなかったと供述

 最初に起訴状の朗読から見ていきましょう。 検察官「まず9月2日付について朗読いたします。公訴事実、被告人は法廷の除外事由がないのに、平成28年7月中旬ころから同月25日までの間に、東京都内、千葉県内、埼玉県内、群馬県内または、その周辺において覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンまたはその塩類若干量を自己の身体に摂取し、もって覚せい剤を使用したものである。罪名および罰条、覚せい剤取締法、同法41条の3第1項1号19条。  続いて9月30日付けについて朗読いたします。公訴事実、被告人はみだりに平成28年7月25日、東京都荒川区南尾久10丁目48番25号、マッソーYAGU1107号室において大麻である乾燥植物片97.10gを所持したものである。罪名および罰条、大麻取締法、同法24条の2第1項。以上の事実につき、ご審議願います」  続いて、裁判官がお決まりの言葉を述べます。 裁判官「あなたには黙秘権があって、言いたくないことは何も言わなくていいということ。それによって黙秘権を使ったからといって、不利益な扱いは受けないということ、それから逆に言いたいことがある場合には、法廷内で発言をしてもらうことになりますけども、この法廷内で話したことは、あなたにとって有利にも不利にも、証拠となる可能性となることがあります。これらについては前回の時に詳しく説明したとおりです」  通常の法廷とは趣が変わってくるのは、ここからでした。裁判官がさらに続けます。 裁判官「では以上の説明を前提に、検察官が読んだ起訴状の内容について、順に聞いていきますけども、まず9月2日付けの起訴状です。あなたが平成28年9月中旬ころから同月25日までの間に、覚せい剤を使用したという内容でしたけれども、先ほど読まれた内容に間違いがないか、それか、どこか間違っているところはありますか?」 被告人「私は、覚せい剤なんか使用していません」 裁判官「うん。わかりました。では9月2日の起訴状について、私は覚せい剤を使用していません。と書いておきますね。ほかに何かこの事実について何か言っておきたいことはありますか? 今の段階ではこれでよろしいですか?」 被告人「はい」 裁判官「それでは続けて次の事実についても聞きますね。9月30日付けの起訴状です。あなたがマッソーYAGU1107号で、7月25日に大麻である乾燥植物片を所持していたという事実ですけども、これについてはどうですか? 間違いないか、それかどこか違うところはありますか?」 被告人「私の物ではありません」 裁判官「私の物ではありません。持っていたということはどうですか? 人の物でも持っているということはありま――」 被告人「持ってなかったです」 裁判官「私は大麻を所持していませんし、私の物でもありません。ということですか?」 被告人「はい」 裁判官「1107号室の中に大麻である乾燥植物片97.10gがあったかどうかということについては、存在は知っていましたか?」 被告人「いえ、知りませんでした」 裁判官「知らなかったけど、存在はしたということですか?」 被告人「はい、部屋にあったみたいで……」 裁判官「部屋にあったようだけれども、私はそのことを知りませんでした、ということですかね?」 被告人「刑事さんが、テーブルの下から見つけていました」 裁判官「なるほど……私は大麻を所持したことはありませんし、私の物でもありませんと。1107号室から見つかったんですよね?」 被告人「はい」 裁判官「1107号室から刑事さんが大麻を見つけたようですが、ってことですかね?」 被告人「はい」 裁判官「聞かされたってことですかね。私がそこにあったことを知りませんでしたということかな?」 被告人「はい」
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体から成分が出たが、本人は摂取したことはない
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。 (https://note.com/so1saito/n/ne391a6864d0b)
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