私たちが歌えばフィロソフィーのダンスになる
――その楽曲なんですけど、公式サイトを引用するならジャンルは「コンテンポラリーなファンク、R&B」。確かにそうではあるんだけど……。
佐藤:実はジャンルはけっこう幅広いと思っています。
――ですよね。正統派であり最新のファンク・R&Bに軸足を置きつつも、「DTF!」みたいなオールドスクールなハードロックもあるし、「ダンス・オア・ダンス」みたいなロックンロール、ジャイヴに類する楽曲もディスコグラフィに並んでいる。
日向:「フィロソフィーのダンスはファンクだから」とジャンルにこだわって聴いているお客さんってそんなにいるのかな? という気もしますし、どれもいい曲ですし。確かに「DTF!」は夏フェスで盛り上がる曲がほしいから作ってもらった曲だから、ちょっと毛色は違うんだけど、ライブでやったときは爆裂に盛り上がるし、その盛り上がり方は常に更新され続けているので、ジャンルを超えてもOKだし、楽しいな、と思っています。それに「私たちが歌えばフィロソフィーのダンスになる」という自信もありますし。
――頼もしい! 実際、現時点での最新ナンバーである「シスター」もこれまでとはまた違う。メロウでセクシーなAORっぽくもあるし、それでいて今の世界標準をにらんだ“コンテンポラリー”なダンスナンバーでもあり。しかもその曲ですら日向さんの言うとおり、4人の声が乗ることでフィロソフィーのダンスたりえている。
佐藤:どうしてなんでしょうね?
佐藤まりあ
――へっ!? 無自覚?
奥津:でも本当に好きに歌わせてもらっています。もちろんレコーディング中に加茂さんや宮野さんとの打ち合わせはありますけど、その加茂さんや宮野さんの考えているレールの上でいかに自分の個性を出せるかを優先していますし。
佐藤:私もなんとなく「この曲はこういう感じで歌おうかな」と考えながらレコーディングに行って、スタジオでアドバイスをもらって調整しているだけ。ぶっちゃけた話、みんなのことは気にしてないです(笑)。
日向:私も私の歌える範囲の精一杯をやっているだけという感じですね。
――十束さんは?
十束:私は声が声なので……。
――いわゆるアニメ声というか、かわいらしい声をなさってますよね。
十束:なのでこのままヤマモトさんと宮野さんの曲を歌ってしまうと、その世界を破壊しかねないんですよ(笑)。だからレコーディング前には必ず宮野さんに「今日の“おとはす”(十束のニックネーム)は何パーセントでいきますか?」って聞くようにしています。そして声とトラックのミスマッチを楽しめる曲なら“おとはす”全開でいくんですけど、マジでミスマッチしちゃいけない曲では“おとはす”を抑えるようにしています。
日向:ただ、私たちの曲ってまずライブで何回も歌ったあとにレコーディングすることが多いので……。
――十束さんは“おとはす”の出力にちょっと腐心なさるかもしれないけど、基本的にはみなさんレコーディングの時点ですでにどの曲も歌い慣れているし、ハーモニーは完成させている?
日向:そういう感じなんだと思います。
――ライブ前のリハーサルやレッスンのときにボーカルスタイルについて打ち合わせは?
十束:「この曲はこういう気持ちで歌って、あの曲はああいう気持ちで歌おう」という感じでセットリストの緩急の付け方は話し合いますけど、ハーモニーについての細かい打ち合わせはしていないですね。
奥津:「今日はこの曲はアゲで」「あの曲はチルで」みたいな話しかしてないよね(笑)。
十束:ハーモニーについてはもう4〜5年、この4人でやってきているので、あうんの呼吸というか。チームワークのなせる業なんだと思います。
――平成ノブシコブシ・徳井さんがそうであったように、結成2年目の時点ですでにアイドルファン界隈では “できあがった”グループ視されていた気もするんですけど……。
奥津:えーっ!? 今、あの頃の映像を観ると未完成感しかないですよ。
日向:当事者の目にはまだまだ未熟だったと思うからこそ、みなさんがそうやって当時の私たちも評価してくれていたのは本当にうれしいですね。
――そして歌詞なんですけど、日向さん言うところの“お酒が飲める”年齢相応というか、「あなた」という2人称に向けたラブソングが多いし、「シスター」の詞なんかは解釈次第では異性愛以外の恋愛すらも歌っているのでは? とも読める。
奥津:なので自分の中に主人公を作るようにしています。レコーディングのときに「これは27歳くらいのけっこうイケてる女の人が海辺にいる感じで」と、曲ごとに具体的な風景をイメージして、それをいかに声で表現するかを考えています。
佐藤:私も登場人物になりきる感じかなあ。恋愛経験なんかないですし……。
――唐突に悲しい話を始めないでください(笑)。
佐藤:でもだからこそ自分の経験に照らし合わせるというよりも、曲の中に自分を投影させる感じで歌っています。たとえば「シスター」の中に〈長い髪の天使〉っていう私が歌うパートがあるんですけど、ライブのセットリストに「シスター」が入っているときは髪を下ろすって決めてますから。
――私は天使なんだ、と。
佐藤:そうです、私は天使なんですっ!
――日向さんはいかに歌詞を解釈しています?
日向:やっぱり自分に照らし合わせることはないですね。歌詞を読み込んで「こんなことを言いたいのかな?」って自分なりに解釈してそれを発信している感じです。でもライブ中はなにか考えながら歌うと歌詞が飛ぶのでなにも考えてないですっ!
――そこで胸を張らないでください(笑)。
佐藤:でも4人ともなにも考えてない……って言うとちょっと違うんですけど(笑)、歌詞の中の恋愛感情に寄り添うというよりは、そこに描かれている哲学的な意味を解釈するようにしている気がします。
十束:うん。私、歌詞をもらって「これは純粋なラブソングだ」と思ったことは一回もないですから。歌詞の中に哲学用語が散りばめられていることが多いので「わっ! 知らない言葉が出てきた」「ヤベー!」みたいな(笑)。まずはその意味をかみ砕いて「この言葉は学問的にはこういう意味なのか」「その考え方って恋愛にも応用できるかもな」って理解する感じなんです。
奥津:確かに私も哲学先行・思想先行かも。……あっ、あと(声のトーンを上げ、両手の拳をアゴに引きつけながら)「マリリはいっつもファンのみんなのことを思って歌ってまーすっ!」。
日向:今のはカットしておいてください(笑)。