更新日:2020年05月14日 08:35
ライフ

“社会”を信頼できない日本で起きていること/鴻上尚史

苦しく絶望しても、未来を作るのに必要なこと

「『社会』を信頼している」状態とは、この時、「すみません。音が少し大きいので小さくしてくれませんか?」と、叫ばずに伝えることです。  もちろん、こう伝えて「なんだとお!?」とからまれることもあるかもしれません。それは、結果です。  信頼して裏切られることはあります。  でも、最初から社会に生きる相手を「受け入れてくれるはずがない。まともに言って、納得するはずがない」と決めつけて「うるさい!」と叫ぶのは「信頼がない」状態です。  で、僕達日本人は、「世間」の人相手に「腹芸」とか「根回し」とかの訓練をたくさん受けるのですが、「社会」に生きる人に対して、穏やかに「自分の要望を語る」ということに、慣れてないのです。  映画館で、隣のお客さんが突然、スマホを出した時に、舌打ちとかガマンとか「おい!」ではなく、「すみません。スマホがまぶしくて、スクリーンが見ずらいです。やめてもらえませんか?」と穏やかに話せる日本人は少ないと思うのです。  でね、こんなコロナの状況の中、「社会に対する信頼」が足らないまま、ネットの書き込みをしていくと何が起こるかというと、怒鳴り合いとか中傷とか罵倒とか、言い放しの状態が出現するのです。  電車の中で、誰もが「うるさい!」と叫び続けている状態です。生まれるのは「対立と分断」だけです。穏やかに話せば、解決するかもしれない問題も、すべてこじれます。 「世間」にだけ生きていて、「社会」は全部、敵と思うなら別ですが、今どき、そんな完璧に保護してくれる「世間」に生きる人はいないと思います。  どんなに苦しくても絶望しても、「『社会』を信頼する」言葉を重ねていくしか、未来を作っていく方法はないと僕は思っているのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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