恋愛・結婚

女のテクに注文の多い男が、一瞬で自信を失った壮絶体験

第二十三夜 酒は飲みたし命は惜しし

 午前三時。消毒液のボトルに貼り付ける《お手手を消毒してね♡》的なラベルシールを印刷しようとしたところ、プリンターがお陀仏になってブチ切れそうになった。  日の変わる前に床について早朝に目覚める隠居老人のような健全な生活を送っていたつもりだが、長年の習慣はそう簡単に断ち切れずにすっかり夜型に逆戻り、それでもいつものようにしこたま酒を飲んでいるわけではないのでそれなりに早起き、という単なる眠る時間の少ない人と化している。どこかで皺寄せがきそうでこわい。  この記事が公開されるであろう日には、うちの店もついに営業再開。ビニールカーテン、消毒液、フェイスシールド完備で時間はちょい早めの夕方から十九時迄という自粛要請のガイドラインに従ったおっかなびっくりの試運転である。  果たしてどのぐらい人が来るのかわからないし、あんまりたくさん来られても喜ばしくないし、カーテン隔てていつも通りにコミュニケーション取れるのかとか、飲まないと死んでしまう酔っ払いたちが早閉めに駄々をこねるんじゃないかとか、フェイスシールドが棚に引っかけてある調理器具にぶつかりまくって落としまくるんじゃないかとか、酔っぱらって暴れてビニールカーテンを殴るというマヌケな姿を晒すんじゃないかとか色々と不安はあるが、とりあえずやってみないとわからない。  世の中やってみないとわからないことはたくさんある。食べ物だって食ってみなきゃわからないし、セックスだってしてみないとわからない。何事もそれなりにチャレンジ精神が必要だ。  チャレンジ精神に溢れすぎて己の技術の拙さを知ったケイジさんという人がいる。  だいたい深夜三時過ぎに完全に出来上がった状態でやってきて、100デシベルのクソでかい声で騒ぎ散らかすゴリゴリのカープファン。だけど歌う曲は『Love so sweet』。お~もいでずっとずっと聴いたら三日ぐらい脳の深部に鳴り響くやかましくも愉快な酔っ払いだ。  最近は出会い系アプリにハマっていて女探しに余念がないが、「毎晩身体が火照って眠れないから抱いてくれたら1000万くれる未亡人」みたいな誰がどう見ても一目瞭然100%役満かよっていうサクラに一生懸命ポイントを使って「お茶しませんか」なんてメールを送っているのがいじらしい。1000万円というセックスの対価として現実味のまるでない金額に惹かれているあたりしょうもなさとダメ男さが伺えるけども。  そんなケイジさんだが、若い頃からそれなりに女性と付き合ってそれなりに経験を積んできたので、ちょっと遊んだり付き合ったりする相手のフェラの技術に対してダメ出しをしたりあれこれ注文をつける癖があった。「そうじゃない」とか「男が気持ち良いとこはそこじゃないんだよな~」とか「もっと舌を使え」とか、偉そうに助言して教えてやっているつもりだった。自分が女だったらフェラの達人になれるのに。そんなことまで思っていた。一人のオッサンに出会うまでは。
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目の前を横切るミニスカートの女性
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