恋愛・結婚

女のテクに注文の多い男が、一瞬で自信を失った壮絶体験

目の前を横切るミニスカートの女性

 その日、ケイジさんは泥酔していた。いつものことだが。時刻は午前四時半、飲み屋を出ると外は既に明るく、辺りに立ち込める熱のこもった湿っぽい空気が夏の訪れを告げていた。繁華街の路地にはぽつぽつと人影があって、酔い潰れてゴミ袋と一体化している若者、覚束ない足取りで歩くサラリーマン、気怠げにシャッターを閉める店の人、皆夜の匂いを引きずっている。  明日は二日酔いが酷そうだ…。思わず地べたに座り込んでしまいたい気持ちをこらえてのろのろと足を進めていると、カツカツと小気味の良いヒール音を響かせながらミニスカートの女性が目の前を横切った。薄手のピンクのカーディガン、風を孕んでたなびくゆる巻きの茶髪、パンツラインぎりぎりの白フリルのミニスカートから伸びる脚はやたらとがっしりしていたけど、酔っ払いを欲情させるには充分な後ろ姿である。ケイジさんは小走りでミニスカを追いかけた。 「おね~ちゃ~ん! ワシと遊ばな~い?」  そう言いながら正面に回り込んで、愕然とした。    ミニスカ女は、ただの女装したおっさんだった。 「なに、アンタ?」  ミニスカおっさんは呆けた顔のケイジさんを訝しげな目で上から下までジロリと見回した。 「いや、あの……」  何と言えばいいのか。酩酊状態の頭を様々な言葉が駆け巡る。すみません、じゃ意味わからない。間違えました、じゃ失礼かもしれない。 「遊ばないかなって……」  結局そのまま言った。 「アンタ、あんまり好みじゃないんだけど」 「お、おう」 「そこでもいい?」 「お、おう(そこ、ってどこだ?)」  朝までやってる日高屋かと思っていたが、言われるがままにミニスカおっさんに付いて歩いていくと、どんどん駅前の中心市街から外れてゆく。人気は全くない。 「ここで良いでしょ?」  入るように促されたのはコインランドリーだった。 「は?」  なんでコインランドリーなんだと言いかけたが、すたすたと外から見えない隅のほうへ向かってゆくおっさんの姿を見て、ケイジさんは自分が後戻りできないところまで来てしまったことに気が付いた。ミニスカの後ろ姿に向かって発した「遊ばない?」は確かにそういう意味の「遊ぶ」であったが、おっさんだと気付いてからは勝手に意味が切り替わっていた。ちょっと日高屋で飲むぐらいのもんだと。だけど違った。ミニスカおっさんはそういう「遊び」のつもりだ。 (どうする? もうやるしかない。ちょっとチンコが付いているだけだ)  ケイジさんはミニスカおっさんに身体を密着させて、ブラでパカパカした空虚なおっぱいを揉んで下半身をまさぐった。レースのパンツ越しに、温かい膨らみが触れる。やっぱりついてる……。知ってたけど。他人の男の下半身など触れたことがなかったので、不思議な感じだった。触っているうちに気分が高揚してきた。謎のポジティブな思考まで湧いてくる。 (もしかして俺、かなり上手にフェラしてこのおっさんをイカせられるんじゃないか?)
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目の前に屹立するビッグディックを…
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(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani

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