恋愛・結婚

風俗店に行くたびに負傷する男は、傷の数だけ勇気と笑いをくれた

思わず小さな悲鳴が漏れた

 下半身に違和感を感じて目覚めた川越さんが時計を見ると、クリームを塗り込んでから二時間近く立っていた。いつの間にか眠ってしまったようだ。タマが妙にヒリヒリする。そっと手を伸ばして触れると、表面はカピカピしていた。クリームが白く乾いて、少し固まってしまっている。  とりあえず洗い流さねばと風呂へ向かった。無事にテカテカになっているのだろうか。蛇口を捻って熱いシャワーを股間へ当てた途端、激痛が走った。痛い。タマがめちゃくちゃ痛い。なんだこれは。一体俺のタマに何が起こっているんだ。おそるおそる触れると、ずるりと何かが落ちた。タマの薄皮っぽいものが縮れた毛と共に剥けたのだった。思わず小さな悲鳴が漏れた。猛烈に痛い。シャワーなどぶち当てている場合じゃない。風呂から飛び出してラブホから拝借したバスタオルでそっと水気を拭った。痛かった。思い切ってマキロンをぶっかけたらさらに飛び上がるほど痛かった。  こうして念願のテカテカのタマを手に入れた川越さんであったが、翌日はパンツの布が擦れる度に痛みが走り、濃厚プレイになるはずだった180分は和やかお喋りタイムへと変わった。  その数日後に店に現れた彼は、いつも通りの困ったような笑みを浮かべながら言った。 「治ってきたらだんだんムズムズしてきて、パンツが擦れると勃起しそうになっちゃって大変なんですよもう」  結局いつも勃起しているようだった。  直近では、ミクちゃんに見られながらのセルフ剃毛プレイにより今度はチンチンを負傷。切り傷をこしらえた根元に凝りもせずマキロンをぶっかけて痛みに悶えている。ここまでくると、我々のために身体を張ってネタを提供してくれているのではないかと疑ってしまうが、彼は純粋に日々新たな快感を追求しているエロに全力で善良なおじさんである。  こうした突き抜けた猥談を披露される度に、わたしなどは太古の昔にプレイにより肉体を負傷した時のことを思い返しては「川越さんに比べれば全然マシだし普通」と思えるし、自分はSだと思い込んでいたイケメンの若者に「俺もアナル攻められてみたいです!」と言わせ、下半身に自身がなくなってきたオッサンたちは「チンコがダメになってもまだアナルがある!」、「俺達には乳首がある!」、「まだ快楽への道は残されている!」と勇気付けられるのである。いい話風に締め括ろうとしていますがしょうもない話であることはわかっています。バカですね。  店を休業していた間、一ヵ月半近く川越さんの顔を見ていない。彼が今度はどんな猥談を引っ提げて現れるのか、わたしたちは楽しみに待っている。  そして自分たちの性癖や変態性を普通だと自覚し、加速させたいのである。たぶん。「これに比べればまだまだ大丈夫」と。<イラスト/粒アンコ>
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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