恋愛・結婚

風俗店に行くたびに負傷する男は、傷の数だけ勇気と笑いをくれた

風俗王・川越さんの蛮勇

 風俗王の川越さん(第四夜第十八夜参照)は、その変態性とそれを巧みに表現する話芸によっていつもわたしたちを勇気付けてくれている。初めて読まれる方のために彼がどういう変態か簡単に説明すると、満員電車とタクシー乗車を避けるために購入した自転車に乗ったところ、サドルで前立腺が刺激されて勃起してしまったと嬉しそうに報告するM寄りの変態だ。  ありとあらゆる風俗で遊び尽し、現在はミクちゃんという回春マッサージのスタイル抜群ギャルに入れ込んでいるのだが、ここ一年くらい、川越さんは会うたびに身体のどこかしらかを負傷している。  最初は乳首だった。来店するなり、乳首が取れそうだと彼は言った。  回春マッサージでなんで乳首が取れそうになるのかわからないが、川越さんのM性癖を目の前にしてミクちゃんのSっ気が目覚めてしまい、プレイが日々過激になっていくのだという。困ったような顔を作りながら乳首を激しく責められたプレイ語っていたが、声のトーンからは興奮が隠しきれていない。 「薄いシャツだと腫れた乳首が目立っちゃうから分厚いシャツしか着られないんですよ。それに、ショルダーバッグの紐が乳首に擦れるたびに、勃起しそうになっちゃって困りましたよ全く」  笑いながら聞いていたわたしの頭にはスタニスラフ・レッグの警句がぼんやりと浮かんでいた。「マゾヒストでさえ拷問すると全面自白する。感謝の念からだ」。次に会った時は、拡張され過ぎたアナルが痛いと相変わらずにこにこしながら嘆いていた。よくあることだ。  その次はタマだった。これはプレイによって傷ついたものではない。  負傷する数日前、川越さんは回春マッサージの予約を取った。180分の長時間コース。人気嬢のミクちゃんと長く過ごせるのは久しぶりだったので、気合を入れて体調と身体を整えた。予約前日、万全の調子で臨めそうだと布団に入り、ふと引き出しに入っている物のことを思い出した。以前に知り合いから貰った脛毛用の脱毛クリームだ。まだ一度も使っていない。男の身だしなみとして、毛ぐらい処理しておいた方がいいんじゃないか。そう思ったところまでは良かった。しかし次の瞬間、別なことが思い浮かんだ。 (この脱毛クリームで、キンタマをテカテカにしよう!!)  目の前に居たら全力で止めているところだが、川越さんの妄想(?)は止まらない。 (テカテカになればデカく見えるし、ミクちゃんも舐めやすいに違いない!)  デカく見せたいのはちんちんじゃなくてタマの方なのかと突っ込みたいところだが今は置いておく。川越さんは引き出しから脱毛クリームを取り出した。パッケージには注意書きが記されている。塗布してから十五分程度で洗い流して下さい。脛に使う強めのものだから当然だ。しかしテンションの上がった彼の目には入っていない。川越さんはパンツを脱いで脚をおっぴろげ、念入りにタマにクリームを塗り込んだ。このまま少し本でも読んでいよう。そう思ってベッドに身体を横たえた。悲劇の始まりだ。
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思わず小さな悲鳴が漏れた
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(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani

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