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性教育は下ネタ? 増える若者の妊娠相談。大人側の根本的問題とは/鴻上尚史

健全な学びのはずが…閉ざされた日本の性教育

 記事はこんなエピソードで終わります。 「水野さんには、忘れられない光景がある。性教育バッシングが激しかった05年の国会。自民党の山谷えり子参院議員が、ある公立小で使用されていた教材を問題視。それに対する答弁として、小泉純一郎首相(当時)は『性教育はわれわれの年代では教えてもらったことがないが、知らないうちに自然に一通りのことは覚えちゃうんですね』と述べた。すると、議場からどっと笑いが起きたという。水野さんは『性教育を下ネタのように考えている人たちがいる。子どもに責任があるのではない。問題は何も分かっていない大人たちだ』と話した」  オヤジ達のニヤニヤと笑う顔が見えます。そして、暗澹たる気持ちになります。  性教育の専門家、齋藤益子さんは、「性教育は性器教育ではなく、『生と性』の教育、人間教育そのものである」と言います。  逆に言えば、日本では「性教育」とは「性器教育」だと思われているということです。だから、「寝た子を起こすな」と言うし、「下ネタ」だと思われるのです。  性教育は、性という人間の大切なものと、ちゃんと向き合い、理解し、健全に生きてくためのものです。  ですから、一番最初に教えなければいけないことは、「あなたの身体はあなたにとって大切なものである」ということです。  そして、「あなたの愛した人とあなたはどんな風にコミュニケイトするのか」「自分と相手にとって、愛と性はどんな意味があるのか」ということを教えるのです。  その一貫として、「LGBTQ」やジェンダーギャップに関する知識を学び、理解するのです。  その過程に、妊娠や避妊の知識と理解もあるのです。  国会で小泉純一郎氏の答弁にどっと笑った人達は、つまりは、「性に対してどう向き合うか」という根本の考えがない、ということです。そして、罪深いのは、笑った彼らの時代にはネットはなかったということです。興味本位の、間違った知識が溢れたサイトと出会う危険はなかったのです。  文科省が世界に目を向ければ、さまざまな性教育の優秀な蓄積があります。  いつまで「性教育の鎖国」を続けて、若者を傷つけ、追い込むのだろうと心配になるのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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