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人のカネでやる競艇を酒場で真剣に予想した結果…

 昼夜を問わず気まぐれにギャンブルをしている様子をネットに垂れ流していると、時折知らない人から、 「いくらか送るから代わりにギャンブルをしてみてくれ。分け前は一部渡す」  という風変わりなお願いをされることがある。普通に考えればありえないことだ。僕も滅多にやらない。ただでさえやり続ければ負けるギャンブルで他人に運命を委ね、さらに分け前まで渡すなんてことは。ただ、そうしたくなる時がないとは言い切れない。  例えば友達を初めてパチンコに連れて行った時、ビギナーズラックを分けて欲しいと思い、博打の神へのお布施の意味で1万円を預けたりする。  例えば最近ずっと調子のいいギャンブル友達がいた時、買い目を完全に委ねてしまいたくなる。  怠け者の博打好きは自分の判断が揺らぐことを嫌う。勝つにしても負けるにしても、気持ちよく結果を受け入れたい。かといって本気で考えて負けるのもシャクだ。だからこそ一度他人に預け、運の潮目を変えてみたいと思う。これも結局のところ神頼みなのだが。  確率でしかないのは重々承知している。ただ「次の一回」がどうなるかをピタリと当てることは、数学をもってしても不可能だ。勝負の一回で勝ちさえすれば収束なんてどうでもいい。  目先の快感さえあれば飯が食える。話のネタにもなる。クズにしかわからないささやかな御馳走に味をつけたい。 ……と、僕に声をかけた人もそうだろうと当たりをつけている。とにかく僕は人の1万円で舟券を買うことになった。  その日、普段からよく現場仕事をくれる人と久しぶりに飲んだ。こんな僕をとても可愛がってくれる。関係性を言葉にするならば知人でも友人でもなく「アニキ」といった感じで、最初に文章を書くことを勧めてくれたのもこの人だ。ギャンブル依存症は犬や猫と同じなので、懐いた相手の元でなら頑張れる。そして意外にも僕は現場仕事ではよく働く。 「というわけなんですよ」  久しぶりの生ビールを流し込みながら事の顛末を話す。 「せっかく預かるお金なら勝ちたいんですよ僕は」 「なら盛り上がらねえとダメじゃねえか。優勝戦にすれば?」  優勝戦。競艇選手はシーズン毎にトーナメントに出ていて、予選、準優勝戦を経て優勝戦を走る。僕たち買い手からすると買うレースはどれでも構わないのだが、優勝戦はレベルの高い選手が揃うから見ていても楽しいだろう、と。  彼は僕よりも一回り以上年上で、ギャンブルに対する経験も長い。そんな余裕から出たであろう一言に感銘を受け、優勝戦で勝負することにした。
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託されたカネも燃える
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