更新日:2020年08月30日 17:05
エンタメ

<純烈物語>相模大野の焼き肉店名物”純烈タイム”は落語と大黒摩季がつくった<第60回>

手作り寄席に談志を呼ぶために……

「立川談志師匠に来ていただくのであれば、ちゃんと筋を通したことをやりなさいって言われて。そこに関してはお弟子さんの立川談之介さんがすごく心得ていて『八起さん、談志師匠はこの日に出演がありますから、楽屋伺いをしにきてください』って言ってくれて、それを何回かやるの。初めてご挨拶にいった時、赤ちゃんを抱っこして楽屋へ入ったら靴の先から頭のてっぺんまで見られて……会話? なかったですね。  2回目も、ご挨拶したら『おう』だけ。『お父さん、今日は2秒だったわよ』とか報告したんだけど、横浜まで缶ビールを持っていったら『この前な、キムチチャーハンを食ったんだよ。うまかったぞー』とあたしに言うの。『そうですかー、あたしも食べてみます』って珍しく会話になったのね。ご飯を食べずに家へ戻ったところで『そういえば、師匠がキムチチャーハンうまかったって言っていたから作ってみよう』となって食べたの」  2ヵ月ほど経って談志師匠が八起へ来た時、開口一番に「キムチチャーハン、うまかっただろ?」と切り出してきた。おかみさん自身はそのことをすっかり忘れており、言われて思い出し「えっ!? あー、おいしかったです!」と返すと「なあ、うめえよなあ」とニッコリ。  自分のような一般人との何気ない会話を憶えていることに驚かされ、そして尊敬の念を抱いた。談志師匠ほどの人物が街の焼き肉店の寄席に十何回と出演したばかりか、プライベートでもひょっこり現れ食べにきた。家族ぐるみの温かい交流が続き、そのやさしさに触れられたのだった。

「ちょっとタレントがいくから」で訪れたのは…

 こうして噺家との交流も広がっていったある日のこと。アーティストマネジメントオフィスの知り合いから「今日、ちょっとタレントがいくからよろしくね」と予約が入った。  来店してもおかみさんはわからなかったのだが、娘さんが声を出さずに「おおぐろまき!」と言っている。  ツアーの初日が座間で、そのゲネプロ終わりで知人に紹介され八起を訪れたらしい。慌てて挨拶にいくと、大黒摩季の気さくさにすっかり魅了されてしまった。
八起店内2

純烈と立川談志と大黒摩季が渾然一体となった店内

 その頃、巷では牛タンを仕入れるのが難しかったのだが、八起には独自のルートがありタン塩を喜んで食べた。プライベートで来ているのだからと写真は遠慮し、サインしていただけますかと色紙を差し出すと撮影もOKと言われ、その時のショットを店内へ貼った。  翌日、おかみさんは「昨日ね、大黒摩季さんが来たのよ! 大白摩季じゃないわよ」などとドヤ顔でお客さんと話した。ただ、写真のプリントがまだ仕上がっておらず、色紙はうらやましがられると思い隠してある。  本当に来たという証拠がないところで女の子が店に飛び込んできた。「おばちゃん、昨日、大黒摩季が来たでしょ!」と興奮している。 「なんで知ってんのよ?」 「だって今日、ステージで本人が言っていたわよ!」  座間のコンサート中、MCで「昨日、相模大野にある焼き肉屋さんへいったんだ。なんて店だっけかな……(客席から『牛角?』と飛ぶと)違う違う、八起だ!」と話したと聞くや、その場にいたお客さんもドッとなり拍手が沸き起こった。この日より、八起にはパネル大にした大黒摩季の写真とポスターが飾られ『ら・ら・ら』がガンガンにかかる店となった。  それは、純烈タイムができた今も変わらない。このように「応援したい」との思いが情熱へと昇華し、お客さんとともに盛り上がる空間ができあがっていったのだ。  酒井との出逢いがあり、ムード歌謡グループとしてデビューしたあと「大黒さんみたいに純烈さんもやりたい」と思いつつも、どう形にすればいいか思いつかなかった。そんな時、NHKで『愛でしばりたい』を歌う姿が目に入った。そこでは客席全体が黄色いメガホンで染まっていた。 「これだ!」と思い、すぐさま「あの黄色いメガホンがほしい!」とツイートした。親切なファンが持ってきてくれたのだが、アイテム欲しさに呼びかけたのではなかった。おかみさんは、それをていねいに分解し始めた――。
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
1
2
3
焼肉八起(やきにくやおき)
神奈川県相模原市南区相模大野6-19-25
http://www.yakiniku-yaoki.com/
AM11:00~PM1:00
PM3:00~PM10:30
L.O.)PM10:00 ※日曜日はPM.9:30
休=月・火曜
おすすめ記事