恋愛・結婚

おっさん酒場に集う“おひとりさま”女子の打算と千年帝国の野望

わたしの身を振り返れば…

 と、ここまで書いたところでとある事実に気が付き、いま自分の身に錆びた刃物を無理やり何度も突き立てたかのような酷い気分に陥っている。  わたしもかつて若さを持て余していた頃、彼女たちと変わらぬ魔法の言葉を用いていたこともある。あるのだが、自分なりの安定と幸福に軌道を切り替えた彼女らとは真逆に、今なお何故こうも暗闇を往く敗残兵のように夜の底に這いつくばっているのだろうか。  考えてみてもその差は唯一つしかない。彼女たちの使う魔法の言葉にはさっぱり本心が伴っていなかったが、わたしはその歪んだ恋愛観と性的嗜好により、深い計算も企みもなく、わりと大真面目に使っていたということである。 「わたし、おじさん好きなんですぅ~」。その通りだった。わたしは十代の頃から中年、ともすれば老年男性が好きである。酒場の処世術としての言葉ではない。清々しいまでに正直な気持ちだ。  ゆえに、ろくでもない既婚者やろくでもないバーテンダーや心臓病を患った死にかけの老人などの下心でしかない好意に尻尾を振って飛びつき、無駄に熱を上げ、かといって所詮は酒浸りの酔っ払い女なので真心を持って愛されることもなく、一人高らかに自爆を遂げる。嘘偽りない気持ちを吐いていたというのになんという有様。なんというダサさ。夜飛ぶ蝶々は嘘の花だが、わたしは蝶々のフリもできない蛾というわけである。いつも誘蛾灯にぶち当たって瀕死状態だ。  そして今日もひび割れたコンクリートにへばりつきながら見上げるのだ。店から店へと、客席から客席へとあでやかに飛び回り、男たちから少しずつ密を吸い上げてゆく蝶たちの姿を。<イラスト/粒アンコ>
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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