ライフ

怪奇!本当にあった幽霊スナック。ただならぬ気配を感じた女は…

第二十九夜 酒場地獄の一丁目

 突然だが、わたしは怪談が好きである。  怪談。怖い話だ。  公の場で文章を書くようになったきっかけも怪談だし、今でもごく稀に怪談を書いたり喋ったりする。お化けを信じるか信じないかと問われれば、どちらかといえば信じていないのだけども、これだけ文明が発達した現代を生きる人々から多くの怪異譚を聞かされると、もしかしたら本当にいるのかもしれないという期待が高まる。いずれにしても、現代を生きる怪異も古くからの怪談や伝承も、わたしたち生きた人間が日常に潜む恐怖をどんな風に恐れ、どんな風に視て、どんな風に解釈して、どんな風に折り合いをつけてきたかの物語であるところに面白さがあると思っている。  とは言っても、わたし自身のいわゆる霊感というものはゼロに等しいので、わたしが書き記したり喋る内容は専ら人から聞いた話が中心になってくる。  スナックでの仕事を始めた時、これは怪談を集めるのにも最適だ、と思った。  毎日あらゆる年代のあらゆる職業の人と接することができる。  しかしこれが結構誤算であったことにはわりとすぐに気が付いた。十年くらい前からネットでは怪談好きの人々に囲まれて、Twitterを開けば誰かしら怖い話をしているのが日常と化していたので感覚が大幅にズレていたのだが、世の中には自分が思っているよりも「怪談が嫌い」「拒否反応」みたいな人がずっと多かったのである。  わたしの働くスナックは女性客も多く訪れる。女性客からの拒否率は高い。まだ何も話していないのに「キャ―――」とか言われる。墓地の「ぼ」ぐらいで「やめてやめて!」とか言われる。それまで和やかに酒を飲んでいた人から、突然「これからはあんまりアナタに近寄らないようにする」とまで言われたこともある。  わたしは面食らった。カウンターに座るお客みんなを巻き込んで楽しむスタイルの店では、誰か一人でも嫌がる人がいる限り、店員であるわたしの口から怪談の話題を出すことはできないのだと思った。そして何より、保守的で矮小なわたしは「酒乱のバカ」である自分のキャラクターが「キモい変な人」へ転落することもまた恐れたのである。  以来、聞かれない限り、そしてその人が興味を持っていると見受けられない限り、自分から怪談が好きだとはほとんど口に出さないようになった。
次のページ
酒が邪魔して本題に入れない
1
2
3
Cxenseレコメンドウィジェット
ハッシュタグ
おすすめ記事