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<純烈物語>後上翔太は「コロナ禍前とは違うなにか」をまとえる存在<第72回>

僕らは球種で言えば3つ、ダルビッシュような七色の変化球は投げられない

「幕が上がったらペンライトが振られていないとか、小田井さんいつも通りガーンと攻めているのに響いていないなあとか一瞬、思うんですけどすぐに違う違う、これもちゃんと響いているんだ、意外とそうでもないんだって思いながら、客席の中へ降りていきました。そのエアラウンドもカメラに向けて手を差し出すと、スッと手を出してくださるマスコミさんもいて、いつも通りなんだなと思えた。  結局のところ、僕らはそんな器用にいろいろできるわけではないので、今まで通りに投げるしかないんですよ。球種でいったら3つぐらいしかないのに、いきなりダルビッシュさんのような七色の変化球なんて投げられない。選択肢がない分、悩まずに済んだところはあったと思います。あそこで無観客用に味を変えていつもと違う表現ができたら、もっと電卓を弾くんでしょうけど」  通常、ラウンドでソロ曲を歌う場合は全曲ツーコーラスにサイズを切って、トータル10分ほどの尺にしている。だが、あの日は4曲すべてフルで回ったため約16分に及んだ。  有観客の時でさえ、16分もラウンドをやると回りきってしまうためステージに戻るなどして間を持たせるのに、そこにオーディエンスがいないとなると何周したらいいのか、パフォーマンスを続けつつ考えなければならなかった。案のじょう、後上はエアラウンド開始1曲目で「あ、もう尽きた」と思った。

ファンとのふれあいが役立った

 それでも慌てる素振りは微塵も見せることなく、どうするかとなった段階で足がマスコミスペースへと向かっていた。球種は3つしかないと言いつつも、ファンとふれあう中で積み重ねてきたことが無人の客席で役立った。 「お客さんもシンプルに握手する方が喜んでくれる人もいれば、こちらが一回無視して素通りすると『ちょっとお!』と返すような絡みを楽しむ人もいたりで、そういう“味変”は今までもしてきたことなので。カメラを持っている方に対し、どうやったらちょっとでも撮りたい絵に近づくかなとか、強く意識しようとしなくてもそういうことは考えながらやっていました。  あそこでマスコミさんの方にいくことが違和感のない純烈だとしたら、そこはいくでしょ……と。今まで培ってきたものから著しく逸脱するのではなく、むしろ培ってきたものの延長線上だから、ちゃんとつながっている。僕は意外と楽しかったな、いい汗かいたなって思えました。終わったあとの囲み取材も純烈マダムがいる時と似た空気感でやっていただけたんで、赤点ではなかったかなと思います」  この2020年も昨年、一昨年と同じペースでライブを続けていたら、別の成長を望めただろう。しかし、こうした状況だからこその伸び方もあるし、無観客ライブの経験は11・5渋谷公会堂でも生かされた。  2021年は、メンバーがそれぞれ吸収したものを形にしていく点での4WAYマッチとなる。その中で「コロナ禍前と違う何か」をまとえるのは、じつは後上なのではというのが、現時点における正直な思いなのだ。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売
純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。
白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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