更新日:2020年11月28日 09:16
エンタメ

<純烈物語>「苦労を素っ裸で投げたら重くなる」後上翔太の純烈観<第73回>

苦労にどういう服を着させて、客に投げるか

「それを頭に描いてほかの仕事をやっていましたね。クイズやお芝居に呼んでもらって、そこでドスベりしても『あの時、必死にやっていたあの人と会うんだ』ってなるじゃないですか。今は開発期間であり研究機関であり、充電期間であり。充電期間は休み明けになるわけで、そこでくたびれていちゃ絶対にいけない。  こういう状況だからと頭を抱えて深刻に悩んでいては急に元気にならないと思うので、ある程度お気楽というか、解き放った部分を持っておかないと、お客さんに苦労ばかりが伝わってまた違うものになってしまう。苦労はしてもいいけど、それにどういう服を着させてお客さんに投げるかだと思うんで。素っ裸のまま投げつけたら重い!ってなるでしょ」  後上からその言葉を聞いた瞬間、息を飲んだ。実はこの連載を続けてきた中で、常にこびりついている葛藤を的確に突かれたからだ。

純烈のカラーとは真逆のことをやっているのかもしれない

 ノンフィクションとして通常ではあまりクローズアップされない部分を掘り下げていくと、やはり悩みや苦しみ、苦労といったネガティブなものに行き着く。純烈はポジティブなエンターテインメントを提供するグループだから、普段は表に出さないようにしてしかるべきなのだ。  もしかすると、純烈のカラーとは真逆のことをやっているのかもしれない。それは、ずっと意識の中にあった。  だからこそ必要以上に重くならぬ表現、書き方を心がけてきたのだが、白川裕二郎の苦悩や小田井涼平の姿勢に心を揺さぶられると、その輪郭をより濃く描いてしまう。味わってきた苦労を口にすることなくメンバーたちがやっているのに、それを台無しにしてはいまいか。  メンバーもスタッフも「純烈丸」に乗っている人たちは取材に対しいつでも協力的である。原稿チェックで修正が入ることもほとんどない。こちらが興味を抱いて掘り下げようとすると、それに見合った言葉を返してくる。  苦労を素っ裸のまま投げたら重いとなる――おそらくこれは、後上が先輩たちから教え込まれたのではなく、自身の感性によって導き出したものだろう。実力不足を認識しても、そこでネガティブな方向へいくことなくプラスに持っていける人間だから、いい形でファンとの間合いが取れているのだと思う。  誰もが明確な“この先”を見極めるのが難しい時代だ。他者に答えを求められぬ中、自分自身で思考しなければ生き残れない。末っ子のお気楽極楽なキャラクターであっても、後上は人前に立つ表現者として頭を巡らせてきた。
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リーダー酒井の血筋を受け継ぐもの
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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