エンタメ

<純烈物語>オンラインライブでメンバー感涙「見上げてごらんツイートを」<第76回>

「純烈は頑張れているでしょうか?」

 たとえ演劇という俎上のものであっても、白川が口にしたのはデビュー前から現在までの中で本当に自身が味わってきたリアルである。その証拠に、このシーンだけ明らかに空気が変わった。  会場内だけでなく、2000人分のスマホやパソコンの前も同じだったはず。スーパー・ササダンゴ・マシンことマッスル坂井は「マッスル」でもそれを肝としてきた。  リアルを際立たせるためにリアリティを描く中で、勝負どころではパーソナルなリアルに賭ける。白川の言葉が本当に味わってきた思いではなく、単にセリフとして用意されたものだったら、タイムラインがとてつもない熱量に包まれることもなかったに違いない。  この空気が変わる瞬間を、酒井はマッスル時代に何度も味わってきた。無音ながらも鳴りやまない「白川さん、頑張っているよ!」の声、声、声……今林が言葉を続ける。 「俺は本当にみんな頑張っていると思うよ。10年前、デビューしたての時に俺を司会に抜てきしてくれてさ、西新宿のハーモニックホールっていう客席小さな小屋でさ、お客さんも20、30人しかいなくてさ。でも嬉しかったんだよ。役者として売れない俺に仕事を回してくれてさ。頑張ってるよ。紅白出たんだもん(ここは台本になかった本心)。  ほら白川、顔上げろ。スクリーンを見上げてみろ。このつぶやき、一つひとつが小さな星なんだよ。暗くて、冷たくて、さみしい夜空みたいな毎日を、おまえらの歌に元気をもらって、小さく輝いているたくさんの星たちなんだよ。小さな星たちが、大きな夜空にひしめきあって、今度はおまえたちを照らしてくれてるんだよ。『ありがとう』『頑張ってね』『体に気をつけてね』……おまえたちは大丈夫だ。この星に照らされてるかぎり――」  そして小田井涼平が歌い出す。坂本九さんのカバー曲『見上げてごらん夜の星を』……ズルい、ここでそれはズルいよ。  1963年――今から57年前に九さんの目に映った星たちは、テキストという味気ない姿に変えつつも、それでいてとてつもない伝心力となってステージに降り注ぐ。ガランとした場内なのに、ファンとの距離感がまるで遠くない。  むしろ、密閉された健康センター以上の近さを覚えた。これって……ふれあっているじゃん。「ツイッターはたった140文字で人を殺すことができる」などと言われるシロモノだが、正しく使えば今の時代だからこそ描ける素晴らしい形も成立させられるのだ。  そのふれあいのBGMのように後上翔太が、酒井が、そして白川が声を重ねる。「見上げてごらん、夜の星を。僕らのように名もない星がささやかな幸せを祈ってる」と。
純烈_渋公5

台本にないのに、感極まる今林久弥(右)とスーパー・ササダンゴ・マシン

 本当に、本当に名もなき頃から純烈はそうしてきた。曲が終わると、酒井に「泣きすぎだよ」と突っ込まれた今林とともに登場したササダンゴも鼻声となっていた。

コロナ禍のオンラインライブ「本当の目的は……」

「見てください、こんなやさしいコメントだらけのSNSってあります? 見たことないですよ。ずーっとですよ。ずーっと、みんなちゃんと見てくれているし、ちゃんと純烈のことを応援してくれているし頑張っていると思っています。本当に今日のこのライブ、やってよかったんじゃないですか、今林さん」 「今日が3年連続紅白出場最後の登竜門として、SNSでバズることを頑張ってきたけど、本当の目的はコロナの影響の中で、純烈とファンの皆さん、バンドの皆さん、スタッフの皆さん、みんなの心を一つにするのが本当の目的だったんです」  その言葉を聞き、そして頭上のツイートを見上げながら酒井も感極まった。それは、どんな時でもリーダーとして先頭切って疾(はし)ってきた男が思わず漏らした2020年だからこその心情だった。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ