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530円のハンバーグを出す洋食屋。調理に電子レンジを使う深い理由

―[スゴいぞ町洋食]―
街角にひっそりと佇む昔ながらの洋食店。どんな街にも当たり前のようにある光景が、今。少しずつ姿を消しつつある。そんな町洋食の語り尽くせない本当のスゴさに迫る――。

今なお530円の価格を守る歴史あるハンバーグ

スゴいぞ町洋食

一番スタンダードなハンバーグ。デミグラスソースがかかったハンバーグに、目玉焼き、コーン、白いスパゲッティが添えられて提供される

「電子レンジがさ、ちょっと悔しくてね」と仁さんは唐突に愚痴った。  平井仁さんは高円寺の小さな洋食屋のご主人。店で初めて言葉を交わしたとき「何とお呼びすればいいですか?」と聞いたら、「みんなヒトシって呼ぶね」と言うので、そのときから仁さんは仁さんである。店の名は「ニューバーグ」。ハンバーグが一番の売りだ。 「ウチは、ハンバーグはもちろん、ソースもドレッシングもコロッケも一から手作りでやってんのに、ハンバーグの仕上げはチンなんだよね。電子レンジは客席から丸見えだし、お客さんが見たら、そういう店かってガッカリするよね」

電子レンジを使う理由とは

スゴいぞ町洋食

軽やかな手さばきでスパゲッティを炒める仁さん。奥に見えるのが件の電子レンジだ

 ニューバーグは昼も夜もお客さんが引きも切らない。でもそれは「繁盛」とは少し違うのかもしれない。なにしろ看板商品のハンバーグは530円で、ライスと味噌汁がつく。お客さんが常に入り続けないと成り立たない商売だ。  すべてが手作りならば、なおさら店を維持する売り上げをつくるのには相応の工夫がいる。ハンバーグを営業前やアイドルタイムにまとめて焼いておき、次々来店するお客さんに電子レンジを使って素早く仕上げて提供するオペレーションは、合理的で冴えたやり方だ。  また、このハンバーグは電子レンジで仕上げるのに適したタイプという側面もある。肉々しい牛肉100%のハンバーグや、切ると肉汁という名の脂が噴き出すふっくらハンバーグなどは焼き立てを提供する以外の方法は取りづらい。  このハンバーグはどちらとも違う。牛豚の合い挽き肉を丹念に練り込み、肉汁をつなぎに吸わせきってしまうそれは、ねっちりとしたまとまりの中にところどころ肉粒感が顔を出すタイプ。電子レンジはそのおいしさを妨げない。
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安い飲食店について語るとき、デリカシーを失う人々
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関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店26店舗を経営する円相フードサービス専務取締役。自身は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に業態や店舗プロデュースを手がける

飲食店の本当にスゴい人々

料理や飲食店の内側にある本当の姿を解き明かす!


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ニューバーグ
東京都杉並区高円寺北3-1-14
11~22時(ラストオーダー21時45分)、無休
昔ながらの製法で作られたハンバーグを、安価な値段で提供し続けてくれているサラリーマンにはありがたいお店

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