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530円のハンバーグを出す洋食屋。調理に電子レンジを使う深い理由

安い飲食店について語るとき、デリカシーを失う人々

スゴいぞ町洋食

メニュー上ではAと記載されているハンバーグ。Bを選ぶとコロッケと生野菜が追加されるなど、組み合わせをいろいろと考える楽しみがある

 この店の歴史は優に半世紀を超え、ハンバーグのレシピは基本的に当時から変わらない。当然、電子レンジを前提にして作られたわけでもないだろうが、それは電子レンジ向きで、幸い薄利多売を余儀なくされる世の中に移行したあとも命脈を保ってこれたのだ。  安い飲食店について語るとき、人は往々にしてデリカシーを失う。ネット上では、このハンバーグを「マズうま」「マルシンハンバーグみたい」と評する言質が散見される。「マズうま」はもしかしたら書いた本人たちは褒めてるつもりなのかもしれない。  しかし、どこに「マズい」の要素が含まれているというのか。「マルシンハンバーグみたい」は完全に因果関係が逆転している。マルシンハンバーグというのはまさにこのタイプのハンバーグをお手本に、そのおいしさに少しでも近づけるべく作られた商品だ。  人がこうデリカシーを失うのは、安い食べ物を手放しで褒めたら自分の感性そのものが値踏みされるという恐怖心からの防衛策かもしれない。ただ、それで心を痛める作り手が世の中に存在することは無視されている。仁さんは自分の仕事に誇りを持っていて、毎日大勢の寡黙なファンを目の前にするその仕事はきっと楽しく充実したものであろう。しかし、どこかで心を痛めている。ふと漏らした愚痴はそういうことだ。

付け合わせは洋食屋の定番、スパゲッティと目玉焼き

 電子レンジで仕上げる、と書いたが正確ではない。仕上げは年季の入った鉄皿だ。電子レンジから取り出されたハンバーグは鉄皿にのせて火にかけられ、ジュジュッと小気味良い音とともに完成する。申し分ないとはこのことだ。
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仕上げにデミグラスソースをかけている写真。鉄皿で火にかけられたハンバーグは、木の板にのせられて、お客さんに出される

 鉄皿には付け合わせのスパゲッティが添えられる。味付けもない白いままのスパゲッティ。それは、数人分がまとめてフライパンで炒められる。右手に持った菜箸の先を大きく広げてほぐしながら、左手でフライパンを煽る。洋食店特有の所作でそれを炒めながら仁さんは「油で炒めてるだけなのに何でこんなにおいしいんだろうね」とご機嫌なことを言う。私も我が意を得たりと深くうなずく。  ハンバーグには目玉焼きも添えられる。ハンバーグが配膳されると、私は目玉焼きを平皿に盛られたライスの上に移動させる。これはこの店に限らず、すべての洋食店で執り行う儀式だ。ハンバーグに目玉焼きの組み合わせは洋食屋の定番であり、ハンバーグという食べ物の幸福度をブーストする。
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ハンバーグについてきた目玉焼きをライスの上に移す稲田氏の儀式。フォークとナイフで料理を食べるスタイルが洋食店の趣を増している

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デミグラスソースも楽しみの一つ
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関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店26店舗を経営する円相フードサービス専務取締役。自身は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に業態や店舗プロデュースを手がける

飲食店の本当にスゴい人々

料理や飲食店の内側にある本当の姿を解き明かす!


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ニューバーグ
東京都杉並区高円寺北3-1-14
11~22時(ラストオーダー21時45分)、無休
昔ながらの製法で作られたハンバーグを、安価な値段で提供し続けてくれているサラリーマンにはありがたいお店

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