エンタメ

<純烈物語>純烈の原動力は「夢と表裏一体の欲」<第80回>

自身が役者の限界を感じたドラマ製作者からのオファー

 コロナ禍でスケジュールが空いたことにより実現できた試みとして、フジテレビ制作による配信番組は大きかった。紅白出場曲の作曲者・幸耕平へそうしたように、酒井は『純烈ものがたり』の全権を番組プロデューサーの関口静夫に託した。それほど心酔する人物だった。 『古畑任三郎』や『さよなら、小津先生』といった一連のフジテレビ制作ドラマを見たことで役者としての自分に限界を感じた酒井は、同じ道を歩いてもそこへたどり着けないと思い立ち、別ルートで山を登るべく純烈を結成する。それらのクレジットに、プロデューサーとしてあったのが「関口静夫」の名前だった。  2019年、山本浩光マネジャーから「関口さんという方から連絡があって、純烈でドラマを作りたいっていうんだけど」と伝えられた酒井は、えっ!?となった。演者ではない人物の氏名をクレジットに見つけただけで憶えている方も十分すごい。  まさかと思い、初めての打ち合わせで「あのう……関口さんって、あの関口さんですよね?」と聞いてみると、間違いなく自分に役者を諦めさせた番組を生み出した人物。そこからは取材記者・酒井一圭が全開となり、とにかく聞いてみたいこと、興味があったあの件、この件について質問攻めとした。

僕らの世界観を理解してくれていた

「ドラマをどういうものにしたいかがその時点で全部、関口さんの中でカッチリ固まっていたんです。純烈の存在だったり活動理念だったりお客さんとの向き合い方、逆にお客さんの反応の仕方も含めてすべてを肯定してくださって、最後は『ジグザグ』で締めたいって言うんです。  僕らの曲の歌詞が描く世界観を理解した上で、純烈等身大のドラマにファンそれぞれの人生がクロスして最後は歌でまとめられる物語というところまでプレゼンされて。もうこっちとしては何言ってんですか!だよね。やってくださいに決まっているじゃないですか。俺にとっては『古畑任三郎』や『王様のレストラン』に呼んでもらったような心境ですから。あの方の実績を思えば、あり得ないような距離感で関口さんの方から純烈ワールドに来ていただけたんですよ」  配信番組であっても、それはまごうことなき「フジテレビによるドラマ」だと現場で実感した。4話分を10日ほどで撮った制作スタッフの熱量は、日焼けで皮膚がずる剥けするほどの真夏の暑さ以上だった。  後上翔太以外の3人は、役者として“自分以外”を演じるのが常だった。それが今回は、酒井一圭が酒井一圭役を、白川裕二郎が白川裕二郎役を、小田井涼平が小田井涼平役を務める。 「自分で言わないことも言う恥ずかしさはありました。たとえば後上が白川に『おまえさあ』って普段の呼び方ではない呼び方をするシーンがあったんだけど、そういう違和感も含めて台本通りいこうぜということにしたんです。ドラマなんだよということを視聴者にわかってほしかったから、そこでリアルは必要ない。演る側としては普段とピッタリではない方が面白かった。
次のページ
山本マネジャーを松下由樹が演じる凄さ
1
2
3
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

記事一覧へ
おすすめ記事