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<純烈物語>2020年に失ったものにリーダー酒井は思いを馳せ、そして涙した<第77回>

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<第77回>純烈渋公公演の4日後「まっする」でもオンラインラウンドでつながった

「ありがとうございます。まあ……本当に苦肉の策で、生き残りを懸けて分裂とかいって、ソロステージがなかったからできなかったわけだけど、本当にスタッフも頑張ってくれたし、声をかけてくれた番組の皆さん、あと押ししてくれたファンのみんなだったり。でも確かにちょっとバラバラになっていたかもしれない。あまりにもステージたくさんやっていたのが、急になくなったからね。あの時も……助けてもらったけど……」  今林久弥の言葉を受けて話し始めた酒井一圭の声が、止まった。冷やかすようでいて温かみのある笑顔で見つめるメンバーたち。  スクリーンに映し出されたツイッターにも、励ます声がリアルタイムで流れ続ける。こみあげてきたものがなんだったのか、涙を拭きながら酒井は続ける。 「もうトシとったからですよ。涙もろくなりますよ。だってさあ、なんで俺、死んでねえんだろうって思うもん! 昨日もよ、NHKのサンドイッチマンさんにやってもらった番組(『サンドのお風呂いただきます』)、何回再放送してもらってんだよ。また番組予告で俺が泣いている姿が出ていたらしい。あれだってNHKさんのスタッフが、コンサートできないからって応援してくれて。  歌番組だけじゃない、ほかの番組の人まで応援してくれた。そうやっていろんな人にずっと助けてもらって、今林さんは本当に最初からいてくれて、ササダンゴも国技館でジャイアントパンダと出してくれて。で……ジャイアントパンダは死んじゃって。だから本当に、なんで俺ら生きてんだろうという思いしかなくて」  一瞬のちゅうちょをはさんで語られたアンドレザ・ジャイアントパンダのこと。事情を知らぬ視聴者は、純烈の元メンバーで体長3メートルの熊猫山脈が亡くなったと思っただろう。

“元メンバー”アンドレザ・ジャイアントパンダ生みの親の死に

 だが、正確にはそのアンドレザのマネジャーとして常に寄り添い、昨年のNHKホール単独公演も一緒にステージへ立った新根室プロレス会長・サムソン宮本さんのことを言ったのだ。そこを知らない人に説明すると、いささか時間を要してしまう。  いや、それ以前に酒井の中ではアンドレザと宮本さんがイコールで結ばれていたということなのだろう。  本連載31話にある通り、宮本さんは2017年に平滑筋肉腫という難病が発覚。アンドレザと全国の人たちへしあわせを運びながら闘い続けた。だが9月11日、帰らぬ人となった。  酒井にとって、そして純烈にとっても2020年に失った大切な存在だった。もう、宮本さんと会えないという現実によって「なんで俺、死んでねえんだろう」との思いが、否応なく脳裏を旋回した。  その答えは、自分自身で出すしかない。泣くことなどまったく考えていなかった配信ライブ……酒井は、涙をぬぐいながら「それでもやってきたんだよな」と自分に言い聞かせ、56日後には道路を一本隔てたNHKホールのステージで歌っているであろう『愛をください~Don’t you cry~』に入った。 「僕らが“いいね”を押すのを考えたのはササダンゴ。今林さんが『あのツイートが星空で……』といって“見上げてごらん”につながるのは小池(竹見)さんの演出だった。それを演じながら、プロデューサーとして俯瞰で見ていて視聴者にパンチがバシバシ当たっていうのがわかったから、よくこんなこと考えつくよな、見事にお客さんが感動しているよ!って思っている部分がどこかにあったんですよ。  それを終わってから小池さんに言ったら『何言ってんの? あれ、酒井君が打ち合わせで、メンバーもお客さんもコロナで辛かったけど、我慢してきて人間は泣きたいと思っているはずだから、泣くようにしてくれって言ったんじゃん』って言われて。自分で発注したことを忘れて泣いてんのね。バカみたいよ。指摘されて、恥ずかしかった」  こんなに苦しんできたんだ、我慢せずに泣いていいんだよ――そのような場をファンに提供するつもりだった。ところが小池との話し合いから数ヵ月が経つ中で配信ドラマ『純烈ものがたり』の撮影などが始まり、自分で言ったことが忘却の彼方へといってしまっていた。  結果、自分の発想であることがすっかり抜けたぶん、なんの計算もなくその瞬間の思いが言葉となりあふれ出た。100%混じりけのない涙とともに。
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おじさんが泣くとおじさんはシンクロする
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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