旅するUber Eats配達員、宮崎で順調に稼ぐ。ゴールは目前
僕は普段、日雇い派遣などの仕事で稼ぎつつ、時間を見つけてはタイなどの東南アジアを中心に旅してきた。この状況では海外旅行には行けそうにないが、日本国内ならば比較的自由に動けるようになってきている。旅がしたい。でも、社会の底辺で生きる僕にはお金がない。そこで「Uber Eats」の配達で稼ぎながら国内を自転車で旅するという方法をとることにしたのである。
旅に出て100日目、僕は宮崎にいた。宮崎のウーバーの配達エリアまでは泊まっているゲストハウスから約30分もかけて電車で移動しなくてはならないのが面倒だが、かなり順調に稼げる日々が続いていた。
この日も夕暮れまで配達してそこそこの収入を得ることができた。
電車に乗ってゲストハウスに帰ると、すぐにシャワーを浴び、ドミトリーのベッドに横になって毛布を被った。ここのドミトリーは和室の四隅にベッド一台ずつ置かれているのだが、ベッドカーテンなどの仕切りはない。他の宿泊客と交流しやすいというメリットはあるのだが、プライバシーがまったくないことを僕は少しストレスに感じていた。
「今日もかなり冷えましたねえ」
しかし、僕のそんな気持ちなど知る由もなく、同室のAさんが話しかけてくる。60代くらいの男性なのだが、彼とはまだ挨拶と自己紹介程度にしか話したことがなかった。
「そうですね。宮崎まで来ればもう少し暖かくなるかと思ってましたけど」
「宮崎の前はどちらへ?」
「大分の臼杵というところです」
「ほう、あそこもなかなかいい街でしょう」
「行かれたことあるんですか?」
はじめは話しかけられたことを少し面倒に感じていたのだが、いつの間にかこれまでのお互いの旅のことで盛り上がっていた。これから沖縄に向かうことを話すと、彼は与那国島を強くすすめてくる。
「あの島からは年に数回だけ台湾が見えることがあるんです」
「へー、それはすごい」
Aさんとの旅の話はどちらからともなく眠りに落ちるまで続いた。
101日目。宮崎滞在最終日。まだAさんの寝ているゲストハウスを出て配達に向かった。そして仕事を終えて戻ってくると、そこにはもうAさんの姿はなかった。僕が配達している間にチェックアウトしていったようである。僕のベッドには彼からの置き手紙が残されていた。
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山本さん
楽しい沖縄を!
良い旅をしてください。
また会いましょう。
A
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山本さん? 僕は首を傾げてしまった。Aさんにはちゃんと「小林です」と自己紹介したつもりだった。まあ、「小林」なんてどこにでもあるような平凡な苗字なので「山本」と間違えられても仕方ないのかもしれないが……。僕は少し苦々しい思いでその手紙をリュックにしまった。
宮崎はUber Eatsで稼げる
Aさんからの置き手紙
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バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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