更新日:2021年02月04日 10:30
エンタメ

「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」という生き方

文/椎名基樹

下積みが長かった“おじさん芸人”がブレイク中

 おじさん芸人がブレイクしている。昨年のM-1グランプリで準優勝した「おいでやすこが」おいでやす小田が42歳、こがけんが41歳。同じくM-1ファイナリストとなった「錦鯉」渡辺隆が42歳、長谷川雅紀が49歳。元日の「おもしろ荘2021」(日本テレビ系)で強烈なインパクトを残した野田ちゃんが45歳。みな長いバイト生活をしながら芸人を続けてきた人たちだ(野田ちゃんはまだバイトを続けているらしい)。
「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」

「アメトーーク!」公式サイトより

 1月21日放送の「アメトーーク!」(テレビ朝日系)では、「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」が放送された。36人の芸人がオーディションを受け、10人が出演を果たした。彼ら以外にも多くの「バイトやめられない芸人」がいるのだろう。多数のいい歳のおじさんたちが、夢を目指して奮闘している。

いい年して夢を追いかける人たちに寛容になった

 私は彼らの存在が非常に現代社会を反映しているように思えた。私は現在52歳だが、私の親の世代には彼らのような人たちは、ほとんどいなかっただろう。私の世代あたりからちらほらと現れ、それ以降はどんどん多くなるだろう。社会は、いい年をして夢を追いかける人たちを、増加させて、受け入れる方向に変化してきた。  まず、非正規雇用が基本の社会において、芸人たちが夢をあきらめて「普通の生活」に軌道修正する理由は希薄だと思う。もちろん仕事だけにエネルギーをそそげば収入は増えるだろうが、アルバイト生活には変わりなく、それならば自分の夢を選び「一発逆転」を狙うのではないだろうか。  次に、私の親の世代では、彼らのような存在はかなり「白い目」で見られたはずだ。今の時代、彼らを「上から目線」で見る者はいたとしても「白い目」で見る人間は少ないのではないだろうか。なにより、彼らの親が、夢を目指して頑張る息子たちを応援している。テレビに出演する芸人たちの親を見ると、彼らから生きる活力をもらっているように見える。一緒に同じ夢を見ている。 「引きこもり」がこれだけ多くなると、夢に向かって努力する彼らは、それだけでたくましいと思える。数十年前に比べて社会はずっと豊かになり、安価で栄養価が高い食べ物も手に入る。生きていくだけなら彼らのその「まじめさ」が担保になるはずだ。親たちは、社会に対してそのようなおおまかな信頼を持っていると思う。
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「バイトやめられない芸人」は日本社会独特の文化!?
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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