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「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」という生き方

結婚して家族もいるのに……

 件の「アメトーーク!」では、45歳のTAIGAが妻に番組出演を報告する場面を放送した。自宅で出演を告げられた妻は、涙を流して喜び、視聴者の共感を呼んだ。TAIGAのように、結婚している、アルバイトやめられない芸人も多数いる。これも昔なら、なかなか考えられなかった状況だと思う。
 運命共同体である妻たちは、親以上に夫と同じ夢を見ているはずだ。経済的な貧しさを「夢」で埋め合わせて夫婦関係を保っているのだろう。家族は最も身近な社会である。彼らの寛容さは社会全体の寛容さを表している。また女性の社会進出も、バイトやめられない芸人の夢の継続に一役買っているようだ。  夢を追い続ける人を容認する社会を作り出している、最も根本的な要因は「個人の自由はこの上なく神聖であり、それを人間は平等に有する」という信念が、人々に浸透しているからだ。自己実現を目指すことは、最も率直な自由の実践だ。したがって、夢に向かって努力することは、非常に尊いことだと現代人には映る。さらにその価値観は、現代人の最も典型的な内面の姿だと思う。

「バイトやめられない芸人」は日本社会独特の文化

 近年のハリウッド映画では『ジョーカー』『ラ・ラ・ランド』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と、主人公が芸能界で自己実現を目指す内容の作品が目立つ。『バードマン』はアカデミー賞作品賞を受賞。『ジョーカー』と『ラ・ラ・ランド』はノミネートされて受賞は逃したものの、その年の最大のヒット作品となっている。そこに現代人の典型的な苦悩が表れているから、同じテーマの作品が作られているのだろう。  バイトやめられない芸人たちも、とても苦しい思いをしていると思う。しかし彼らに承認欲求が暴走している様子はあまり感じられない。それは彼らが「芸人村」という、なんだか妙に温かいコミューンに身を置いているからかもしれない。外から見ているだけだが、彼らの世界には、相互扶助のシステムが自然に働いているように見える。その世界の居心地の良さが、彼らの我慢の原動力なっているように感じる。これは日本社会独特の文化だ。
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina
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