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中年男のハゲ自虐、どこまでツッこんでも許されるのか?

期待の育毛剤に色めきたつオヤジたち

 テレビでもスマホの広告でも鬱陶しいくらいに宣伝されているので、読者の皆様も一度は耳にしたことがあるだろう。ヒヨコの毛は産まれた時からフサフサだという着眼点から開発された卵由来成分のアレだ。ヒヨコの毛もヒトの毛も同じケラチンだということらしいが、ケラチンなんていったらヒヨコじゃなくたって毛はほとんどケラチンだし、サイの角だって馬の蹄だってたぶんケラチンだし、ヒヨコはそもそもヒヨコという生き物でヒトとはだいぶ違うし毛はいずれ羽になるわけだし、なんとなく疑わしい。  そんなことを思っていると横に立っていたマスターが食い付いた。 「うわー! ニュー●! どう? 効く?」  俺も気になってたんだよね、と前のめり気味だ。 「効いてる気がするけどユッキーにわかんないって言われたし~。っていうかマスターは別にいらないじゃないですか」  ゴミちゃんは再び拗ねるように口を尖らせた。 「いやいや、俺やばいんだって! このへんやばいんだって」  このへんこのへん、とマスターは頭を下げて後頭部を指さす。 「え~、ぜんぜんあるじゃん! そんなこと言ったら俺どうすんですか」 「いやほんと髪型でごまかしてるだけなんだって」 「ごまかせるだけの髪があるってことですよね?」 「そうだけどハゲ散らかってるんだってば」 「俺の髪はもはや散らかることもできないんだけど!」  中年二人、互いの後頭部と頭頂部を突き出しながらハゲ問答が始まった。シュールすぎる光景に思わず噴き出してしまう。

“毛根の謀反”にはナイーブな男たち

 一般的に言って、既に毛根に裏切られた人よりも毛根の謀反の気配を感じ取っているマスターのような人のほうが敏感に気にしていることはまず間違いない。毛髪がなくなるという不安にまだ慣れていないからだ。何年も裏切られながらも期待半分、ネタ半分で育毛剤を試しているゴミちゃんや「俺は頭も性器」とか公然と言い切っているような人はその不安と恐怖を既に乗り越えている。そして、こんな問答をしている最中にも「絶対にこの話題に乗るまい」といつもより口数少なく黙々と酒を飲んでいる顔がいくつかあることも見逃せない。 「じゃあマスターに余ってるのあげましょうか?」  ゴミちゃんがいきなり商人の顔つきになってニヤリと笑う。 「俺、定期便頼んじゃったから使いきれなくて余ってるんですよ」 「ほんと? ほしい」  マスターが再び身を乗り出した。 「売りますよ。定価で。5000円くらいで」 「え。初回なんだから安くしてよ」 「じゃあボトル一本と交換で」 「なんだそれ!」 「じゃあボトル二本」 「なんで増えるんだよ! それが目的か!」 「い~じゃんいつも来てんだから。たまには気前よく十本くらいボトルくれても」 「赤字だわ!」  ハゲ問答がだんだんと酔っ払いの漫才になってきたところで、ゴミちゃんから一杯強奪して場所を移ると、今度はマッちゃんが暗い顔で皿の中をつついていた。
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気づけば不健康自慢の様相に
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