恋愛・結婚

「今回は本気なやつかも…」スナックに出没する40代独女のしたたかな恋活戦略

 夜目、遠目、笠の内。暗がりで目にする女性の顔はやたら魅力的に映るもの。酒の力もそこに加わり、スナックは恋多きシングル女性にとって“格好の狩場”という側面も持つ。  そんな、スナックを主戦場に衝動買いをするような恋愛を繰り返してきた四十代女子・桜田ちゃんが1年ぶりに本稿に登場。お決まりの色恋話を振ってきた彼女を見て「どうせ一夜限りの黄昏流星群」とタカをくくっていた筆者は、その恋の意外な展開に、少なからずショックを受けるのであった。 粒アンコ

第三十七夜 愛が僕に噛みついて(物理)

 桜田ちゃん(第三夜 お酒の国に住む妖精ちゃんの正体は「女版セクハラおじさん」)は恋をしていた。ことのはじまりは去年の夏。まだ素面で人と視線を合わせられない状態の彼女は、来店するなりカウンターの木目をじっと見つめたままぽつりと言った。 「わたし、恋をしてしまいました」  それに対する我々の反応は極めて薄かった。 「へぇ~」  いつものことじゃん、もう聞き飽きたと言わんばかりマスターは生返事をした。  実際、いつものことだった。「若くて顔の良い男」が好きな四十代の桜田ちゃんには、常にマイブームの人みたいなのがいる。ちょっと前はメイくん、その前はコマちゃん、その前はショウくん、その前は菅田将暉。マイブームというか、店内に限って言えば「その日限りのお気に入り」と表現したほうがしっくりくるかもしれない。  ターゲットを決めると、桜田ちゃんはグラスを持ってその人の隣に移動し、ぺったりとくっついて離れない。たいてい二十代~三十代前半の男性で、彼らは泥酔した桜田ちゃんに身体中を撫で回され耳を齧られたあと『WINDING ROAD』をデュエットさせられるという洗礼を受けることになる。そうして果てには奇声を発する彼女のあしらいに慣れた頃に、立派な汚れた男が完成するというわけである。その瞬間の桜田ちゃんの熱は、翌日にまた酒を飲み始める直前くらいまでは持続する。「昨日の○○くんに恋をしました」と言いながら、白ワインを一本空ける頃にはもう別の男に興味が移っている。そんなお決まりの日常だった。

今回はちょっと本気なやつかも

「昨日って誰かイケメンいましたっけ?」  わたしは考えるような仕草をしつつ記憶をたどる。記憶はなかった。何も思い出せない。諸悪の根源はすべて酒。ファック。 「昨日とかじゃなくて、飲み屋とかじゃなくて、その」  桜田ちゃんはごもごして歯切れが悪い。どうやらいつもと様子が違う。 「うん?」  わたしたちは何も言わずに先を促した。桜田ちゃんはしばらく「うーん」とか「えーと」とか呟きながら視線を泳がせていたが、やがて消え入るような声で言った。 「今回は、ちょっと本気なやつかもしれない」 「……」  やっぱりいつもは本気じゃなかったんだね、という茶化すような言葉が喉のあたりまで出かかっていたけど頑張って飲み込んだ。  聞くところによると、お相手は趣味である音楽の飲み会を通じて知り合った二十代前半男子。連絡先がわからなかったのでSNSのアカウントを探し当てて、近々コンタクトを取ろうとしている真っ最中だという。こういうの聞いていると、女の、気になる相手(とその周辺)のSNS捜索能力ってめちゃ高いなとしみじみ思う。若干怖ささえ感じる。 「次にいつ会えるかわかんないし」  と桜田ちゃんはスマホをいじりながら言う。 「あ。みてみて。この子」  差し出されたスマホの画面には細身でさわやか系の青年が映っていた。彼のSNSに載せられていた写真だ。意外とスレてなさそうというか、ぶっちゃけまだ子供の面差しが残っている。
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「お母さんみたいです」って
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