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星野仙一、落合博満が惚れ込んだ甲子園のスター。「潰された?」の問いに本人は

2年目のつまずきが大きく……

 上原のルーキーイヤーは24試合3勝2敗1セーブ 46イニング 防御率2.35、リーグ優勝に貢献し、上原は「沖縄の星」から「昇竜の星」へと上りつめスター街道まっしぐらに思えた。だが、上原の躓きは、すぐさまやってくる。2年目、先発転向するも力振るわず、22試合のうち13試合先発し、4勝5敗 防御率4.46。首脳陣はもとよりファンの期待を大きく裏切った。 「2年目のジンクスとよく言われるけど、当然相手も研究してくるし、先発をまかされる以上、長いイニングを投げていく中で、どうにかうまく投げたいという思いが強くて、自分の特徴を殺してしまった感がある。実は1年目の終盤から調子が良くなかった。  先天的に右肩と右の背筋が強すぎるため上体のバランスを崩し、シーズン終盤はちょこちょこ打たれたよね。だから、春のキャンプでは投げる際に両肩が平衡になる習慣をつけるためフォーム改造に取り組んだ。思い切り腕を振るんじゃなくて、球を揃えるといったコントロール重視。言うなれば、球を置きに行ったんだよね。自分の分析力のなさで失敗したね」  上原は「分析力」を強調した。1年目の成績を自分なりに分析し、次のステップに移れるようなチャレンジをしていれば結果は違ったと猛省する。 「1年目にあれだけ活躍したため、それ以上を求めてしまい、自分の中でも失敗しても開き直ることができなかった。シーズンのスタートが良ければ、そのまま波に乗れていたのかもしれない。1年目にチーム事情でセットアッパーに回ったけど、そのインパクトが強くて、僕のメンタル部分においてもリリーフ向きじゃない。本当はしっかり体調を整えて、計算してやっていくタイプ。自分は先発完投タイプだと思う」

酷使ではなかった……

 上原を見ると、常々思うことがある。「酷使」によって潰れてしまったのではないか。  中日星野監督の第一次政権時代(1987~91)は、近藤真一、与田剛、森田幸一と若くてイキのいいピッチャーを1年目からバンバン使い、潰してしまうという無茶な起用法がファンの間で物議を醸す。いわゆる酷使だ。高卒のピッチャーは身体がまだできていないのに、いきなり一軍で使い、その結果壊れる。近藤、上原がまさにそのケースに当てはまる。 「潰されたとは思っていない。投げさせてもらえるのはとても嬉しいことだし、あくまでも自己管理の問題。昔はロングリリーフっていうのが頻繁にあって、今のように確立した分業制の状態で投げていない。ロングリリーフはブルペンで準備する作業が多い。つまり何回も肩を作らなきゃならないので、かなり負担が多い。でもあの当時はそれが普通だった。首脳陣に対しても何の感情も持っていないよ」  復活を懸けて臨んだ3年目、スタートから躓いた。オーストラリアでの自主トレで右足をひねる怪我をし、故障者第一号という不名誉な称号が付与される。その怪我が響き、万全とはほど遠い状態で開幕を迎え、わずか8試合でファーム落ち。一軍に戻ってくるのは7月下旬。4カ月近くもファームにいたのだ。結局、3年目は13試合 2勝5敗 防御率6.85。  再起をかけた4年目、開幕は二軍だったが1カ月遅れで一軍へ上がると、セットアッパーであれよあれと勝ち星がつき、終わってみれば8勝4敗 防御率4.48。8勝を挙げてはいるものの、ファンの間ではルーキーの年のインパクトが強すぎて、この8勝など覚えていない人がほとんである。プロ入り最高の8勝は、たった8勝かもしれないが上原にとって勲章のひとつである。だが実は、このときから魔の手が忍び寄っているとは気付かなかった。<取材・文/松永多佳倫>
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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