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このままでは、五輪は人々の命を危険に晒すことになる<東京都医師会会長・尾崎治夫氏>

なぜワクチン接種が遅れたのか

―― 菅政権はワクチンに一縷の望みを託していますが、接種は一向に進んでいません。 尾﨑 高齢者への接種が完了すれば、重篤患者の数は減るでしょう。そうすれば、感染者の増加が医療体制の逼迫につながるという現在の状況は打開できるはずです。我々も医師として最善を尽くしたいと思います。  ただ、ここまで接種が遅れたのは、政府の初動が遅れたからです。  コロナが流行した当初から厚生省や感染研は「そんなに早く安全で有効なワクチンは作れないだろう」とワクチン政策に懐疑的な姿勢だったため、政府のワクチン調達や承認が遅れてしまったのです。  ファイザー製ワクチンは昨年12月に申請があり、2月に特例承認されましたが、3か月も時間をかけています。政府は今になってモデルナ製ワクチンを5月中に特例承認するなどと言い出していますが、スピード感がチグハグです。  また、政府はワクチンの確保に目途を立てられず、接種のスケジュールを一向に発表しませんでした。自治体の中には4月中に接種会場を用意していたが、ワクチンが来なかったせいで接種を見送らざるをえなかったところも少なくありません。  ところが、菅首相は4月23日の記者会見で唐突に「7月末までに65歳以上の高齢者への接種を終わらせる」と発表しました。それから政府は自分たちの遅れを取り戻そうと自治体の尻を叩いて医師会をせっついていますが、ワクチン接種はすぐに完了できるわけではない。  ただでさえ現在は第四波で治療のために人手が割かれている状況ですから、感染を抑えなければワクチン接種のために十分な人員が確保できない。今後、第四波が拡大して感染者が増えれば、ワクチン接種はストップせざるをえません。  また、多数の患者にワクチンを接種すれば、それだけ他人との接触が増え、医療従事者の感染リスクが上がります。しかし、医療従事者へのワクチン接種は3分の1しか終わっていない。医療従事者への接種が遅れれば、それだけ高齢者への接種も遅れます。  すでに東京では、現時点で7月末までに接種を完了できない自治体が4割にも上っています。今後はこれらの自治体にテコ入れをしなければならない。  この間、一部の国民からは「ワクチン接種が遅れているのは日本医師会がたるんでいるからだ」という批判が上がっています。政府筋からも「医師会の協力が足りない」というような声が聞こえてくる。冗談ではありません。我々が協力を惜しんだつもりは一切ない。政府の責任を医師会に転嫁するような主張は非常に心外です。

「大規模接種センター」の不安要素

―― 菅政権は自衛隊が1日1万人にワクチンを接種する大規模接種センターの設置を指示しました。 尾﨑 我々は何も聞いていませんが、心配しながら見守っています。1日10時間で1万人に接種する場合、1時間で1000人に打つ計算になります。仮に医師・看護師・事務員のブースを50個作ったとすれば1時間で20人、3分で1人のペースで打っていく必要がある。  しかし、高齢者の場合は聞き取りで予診票を作る必要があり、認知症の患者も少なくないでしょう。最低でも1人15分程度はかかるのではないか。本人だけではなく付き添いの家族も来るでしょうから、接種会場が「密」になってクラスターが起きる恐れもあります。  医師の立場から見て不安な点もありますが、集団接種がうまくいくことに越したことはありません。無事に成功することを願っています。
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ワクチン接種の規制緩和は金儲けの道具か
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2021年6月号

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【特集2】日本はどこへ
【特別インタビュー】五輪延期を打ち出すか 女帝・小池百合子の深謀遠慮(東京工業大学教授 中島岳志)


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