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このままでは、五輪は人々の命を危険に晒すことになる<東京都医師会会長・尾崎治夫氏>

人々の命を危険に晒す五輪には協力できない

―― 尾崎さんは東京五輪を運営する大会組織員会の顧問を務めています。 尾﨑 変異株が主流である第四波が収まらない限り、五輪開催は難しいといわざるをえません。東京五輪をきっかけに国内外の感染状況を悪化させ、人々の命を危険に晒す恐れがある状況では、医師として開催には協力できないということです。  私は組織委員会などに対して、五輪を開催したいならば外国のコロナを持ち込ませず、国内のコロナを持ち出さないための具体的な対策を示すよう求めていますが、いまだに回答はありません。  また組織委員会は、すでに外国からの観客は受け入れを断念しましたが、国内の観客は受け入れる方針のようです。しかし、ワクチンを接種した外国人よりも、接種していない日本人のほうが感染リスクは高いのです。国内の感染が収まらず、ワクチン接種も進んでいない以上、無観客が現実味を帯びているのではないか。  ただ無観客にしたとしても、選手団、IOCや組織委員会等の役員、スポンサー、メディアの関係者は5~7万人もいます。その感染対策だけでも入念な準備が要りますが、具体的な内容は何も決まっていません。医師や看護師が何人必要なのかという基本的なことすら分かっていない。これで「対応しろ」というのは無理です。

「医師や看護師ならば何でもできる」は素人の発想

―― 組織委員会は日本看護協会に看護師500人程度の派遣を依頼すると同時に、日本スポーツ協会を通じてスポーツドクターを200人程度募集しています。菅首相は看護師の派遣について「現在休まれている方もたくさんいると聞いている。そういうことは可能だ」と述べています。 尾﨑 私は何も聞いていないので詳しいことは知りませんが、看護師やスポーツドクターに五輪の医療体制は担えません。もともと五輪の医療体制には「救急対応」「災害対応」「核・生物・化学兵器等のテロ対応」「外国人対応」が求められ、今回はその上さらに「コロナ対応」も加わっている。  休んでいる看護師や整形外科医のスポーツドクターでは、これらの問題に対応することはできません。それができると思うのは、「医師や看護師ならば何でもできる」と誤解しているからです。これは素人の発想です。  菅首相は「地域医療に支障を生じさせずに必要な医療体制を確保できるよう、関係者と丁寧に調整を進めている」とも述べていますが、この発言は矛盾しています。コロナに対応できる医療従事者を五輪に集めなければ「必要な医療体制」は確保できませんが、彼らを五輪に集めれば「地域医療に支障」が生じます。  ワクチン接種だけではなく、東京五輪のコロナ対策も一向に進んでいない。政府は本気で五輪を開催するつもりがあるのかと思わざるをえません。
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インド株主流の第五波を防げ!
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2021年6月号

【特集1】コロナ敗戦 A級戦犯は安倍・菅・加藤だ
【特集2】日本はどこへ
【特別インタビュー】五輪延期を打ち出すか 女帝・小池百合子の深謀遠慮(東京工業大学教授 中島岳志)


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