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「外国人監視」に利用される東京五輪<東京新聞社会部記者・望月衣塑子>

「なぜスポンサーにするのか」東京新聞を嫌厭した森喜朗

―― しかし、メディアは東京五輪の問題点を十分に批判していません。朝日・毎日・読売・日経・産経・北海道新聞の6社は東京五輪のスポンサーになっていますが、五輪報道をどう見ていますか。 望月 読売新聞は6月9日に「G7、東京五輪の開催支持へ」と、大々的に独自スクープを報じました。菅政権からリークされて、五輪開催を援護射撃したのだと思います。  その一方で、五輪中止を訴える新聞も現れています。信濃毎日新聞は5月23日付の社説で「東京五輪・パラ大会は中止を決断せよ」と述べ、朝日新聞は5月27日付の社説で「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」と書いています。  東京新聞も6月1日付の社説で「コロナ禍の五輪 大切な命を守れるか」と疑問を投げかけていますが、「だから中止すべきだ」という主張にまでは踏み込んでいません。  私自身は、東京新聞も五輪中止の立場を明確にすべきだったと思います。なぜ同じ地方紙の信濃毎日新聞や五輪スポンサーの朝日新聞に書けたことが、東京新聞に書けないのか。社員として悔しい気持ちです。 ―― 中日新聞は五輪スポンサーになっていません。なぜですか。 望月 実は、「森舌禍事件」と呼ばれる出来事があったと聞きます。中日新聞本社にも電通から「全国最大のブロック紙である中日新聞もスポンサーにならないか」と打診があったそうです。  しかし、大会組織委員会の森喜朗会長(当時)が「中日新聞は、政権を批判している東京新聞を持っているが、それをスポンサーにするのか」と難色を示したため、当時の小出宣昭社長が激怒して断ったといわれています。その結果、中日新聞はスポンサーにならなかったのです。  これは正しい判断だったと思います。東京五輪は政府が主導する“国策”です。メディアがそのスポンサーになれば、権力を監視するというジャーナリズムの使命を果たすことが難しくなります。だから、そもそもメディアは政府主催行事のスポンサーになるべきではないのです。東京新聞は開催都市の名前を冠する地方紙ですが、五輪スポンサーにならなくて良かったと心から思います。 ―― 東京新聞は「五輪リスク」という連載を組み、「大会予算『魔物』は膨張し続ける」「垣間見える商業五輪の醜さ」など、五輪に批判的な記事を積極的に掲載しています。 望月 私は五輪報道を担当していませんが、五輪スポンサーではない東京新聞は批判も含めて比較的自由に五輪報道を行うことができているのではないかと思います。それだけに、社説で中止の立場を明確にしていないのが残念でなりません。

「私」を主語に記事をかけ

―― 日本のメディアは「海外メディアが東京五輪を批判した」とは報道しますが、自らの紙面では東京五輪を批判しません。 望月 確かにニューヨークタイムズなどの海外メディアは東京五輪やIOCの問題点を批判していますが、本来ならばこういう批判は日本のメディアが行うべきものだと思います。  たとえば、IOCは「東京五輪を実現するために犠牲を払わなければならない」(バッハ会長)、「緊急事態宣言中でも五輪を開催する」(コーツ調整委員長)、「菅首相が中止を求めても、大会は開催される」(パウンド委員)など、日本を侮辱するような発言を繰り返しています。  これに対して、日本のメディアは「IOCがこんな発言をした」と事実を伝えるだけでなく、自ら直接IOCに抗議したり、異議を唱える記事を署名で書くべきです。 ―― なぜ海外メディアにできることが、日本のメディアにはできないのですか。 望月 海外に比べて、日本のメディアが読者の支持を得られていないことが大きいと思います。たとえば、ニューヨークタイムズはトランプ政権と対決する報道姿勢を打ち出した結果、読者の支持を得て、購読部数が350万部から750万部に2倍以上増えたといいます。  一方、日本の新聞社は政権と対決しても、あまり読者の支持は得られません。これでは厳しい政権批判を続けることは難しくなります。  読者の支持を得られるかどうかは、記事の書き方が関わっていると思います。これまで日本の新聞社では記者の主観を差し挟まずに客観的な報道を行うべきだという風潮が強くあり、新人の記者はそういう訓練をうけてきました。  しかし、最近では「記事を書いているあなた自身はどう考えるのか」と、記者の主観を求める読者の声が強まっているように感じます。実際、マーティン・ファクラー元ニューヨークタイムズ東京支局長は、「本社からは『I(私)を主語にした記事を書け』という指令が来ている」と話していました。  日本の記者は個人のSNSで自分の考えを発信していますが、紙面では自分の考えをあまり書いていない。SNSでは五輪開催に反対しても、紙面では反対せず、その代わりに反対する識者や読者の声を掲載しているような状況です。こういう記事の書き方だけでは、読者の支持が得られなくなっているのかもしれません。  東京新聞には「視点」というコラムがあり、私もそこで自分の考えを書いていますが、「I」を際立たせるような取り組みをもっと進めるべきだと思います。
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メディアは五輪開催中でも批判を続けよ
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月刊日本2021年7月号

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【特集2】「コロナ五輪」強行! 翼賛メディアの大罪
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