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「外国人監視」に利用される東京五輪<東京新聞社会部記者・望月衣塑子>

東京五輪の問題点を報道し続ける

―― 安倍・菅政権はメディアに圧力をかけ続けてきましたが、権力とメディアの関係に変化はありますか。 望月 最近、菅政権のメディア対策が変わり、メディアへの圧力は緩和されているように感じます。  一つは、官房長官の違いです。菅官房長官は番記者とのオフレコ懇談会で、テレビ朝日の報道ステーションなどを念頭に「放送法に抵触する番組がある」と恫喝まがいの発言をするなど、常にメディアに圧力をかけていました。しかし、加藤官房長官はこういう陰湿な対応をしていないようです。  もう一つは、内閣広報官の違いです。菅政権も当初、安倍政権と同じようにメディアに威圧的でした。しかし、今年3月に総務省接待問題で山田真貴子広報官が辞任、その後任に小野日子外務副報道官が就いてから、取材や質問の機会が少しですが増えました。コロナ禍ということもありますが、安倍政権の時代と比べてぶら下がり会見の回数は多くなり、首相記者会見での質疑応答も5~6回から10~20回に増えています。  しかし、特定のメディアに対する嫌がらせや質問を重ねる「さら問い」を認めない状況は相変わらずです。首相会見などでは、政権に批判的なメディアに質問の機会を与えない状況が続いていました。東京新聞は菅政権が発足した昨年9月から毎回首相会見に出席していますが、今年4月までは一度も当てられませんでした。抗議の批判記事が出て10回目から漸く当てられるようになりました。 ―― 望月さんは昨年から官邸記者会見に出席できない状況が続いていますが、菅首相に何を質問したいですか。 望月 菅首相はあまりに無責任です。菅首相は国会で「国民の命と健康を守れなければ、やらないのは当然だ」と五輪中止の可能性に触れましたが、具体的基準は明らかにしていません。同時に「私自身は主催者ではない」と述べ、開催か中止かを判断する立場ではないと強調しています。これでは「何も責任をとらない」と言っているも同然です。  昨年、東京五輪が1年間延期することに決まったのは、安倍総理がIOCに延期を提案してバッハ会長が同意したからです。それと同じように、菅首相はIOCに中止を提案できるはずです。  菅首相が「国民の命と健康を守る」と言うなら、具体的な基準を明らかにした上で、それが満たされない場合はIOCに中止を提案する責任があるはずです。それを省みない菅首相には、本気で国民の命と健康を守る気がないとしか思えない。機会があれば、こうした疑問を直接ぶつけたいと思います。  現在、メディアの中では「このまま東京五輪は強行されるんだろうな」という諦めムードがありますが、たとえ開催したとしても、それで東京五輪の問題がなくなるわけではありません。メディアは東京五輪の開催中、開催後も、コロナ禍での五輪開催の問題点を報道し続けるべきだと思います。 <6月9日 聞き手・構成 杉原悠人 記事初出/月刊日本2021年7月号より> もちづきいそこ● 慶應法学部卒後、東京・中日新聞に入社。社会部記者。2017年平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞、2019年「税を追う」取材チームでJCJ大賞を受賞。著書『新聞記者』は、2019年にドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』として公開さ れ話題に
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2021年7月号

【特集1】【特集1】言論の府・国会は死んだ
【特集2】「コロナ五輪」強行! 翼賛メディアの大罪
【特別インタビュー】1億5千万円問題 検察審査会が安倍晋三を追いつめる 弁護士・元東京地検特捜部検事 郷原信郎


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