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「外国人監視」に利用される東京五輪<東京新聞社会部記者・望月衣塑子>

―[月刊日本]―

東京五輪を口実に難民・移民を徹底排除

東京五輪―― コロナ禍で東京五輪が強行されようとしています。望月さんは記者の目線から、東京五輪の問題をどう見ていますか。 望月衣塑子氏(以下、望月) 東京五輪は絶対に中止すべきだと思います。コロナ禍で五輪を強行すれば、第五波の流行や医療崩壊、新たな変異株の発生などの事態が起きる危険性があります。だからこそ、政府分科会の尾身茂会長までもが開催に警鐘を鳴らす状況になっているのです。  しかし、東京五輪の問題は感染リスクだけではありません。私が特に深刻視しているのは、外国人の人権問題です。  オリンピックは国際交流や相互理解を深める「平和の祭典」です。本来ならば、政府は東京五輪をきっかけに、外国人問題の改善に取り組むべきです。しかし、政府は東京五輪を口実に、逆に外国人に対する取り締まりを強化しているのです。  入国管理局は2015年、東京五輪に向けて2000万人以上の外国人を歓迎する「安全・安心な社会の実現」を図るとし、2016年には「我が国社会に不安を与える外国人」を大幅に減らすよう全国の入管に通知を出しています。  2018年には警察庁、法務省、厚生労働省が「不法就労等外国人対策の推進(改訂)」という共同文書で、三者の連携を確認しています。そこには、こう書かれています。 《政府は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた「世界一安全な国、日本」を創り上げることを目指している。平成25年に策定された「『世界一安全な日本』創造戦略」では、不法滞在・偽装滞在者の積極的な摘発を図り、在留資格を取り消すなど、厳格に対応することとしている。……このように、政府全体を挙げて不法残留者を始めとする不法就労等外国人に対する取組を続けているところである。》  この年には入国管理局の君塚宏警備課長(当時)の名前で「不法就労等外国人対策の推進について」という通知が出され、「不法滞在者の縮減に向けて、効率的かつ強力に業務を推進」するよう再び全国の入管に求めています。  つまり、東京五輪を機に訪日する外国人を歓迎するために、政府全体を挙げて「社会に不安を与える外国人」を排除しているのです。政府にとって「都合の良い」外国人を歓迎するために、「都合の悪い」外国人を排除する。こんなことを許していいのか、絶対に許せないという思いです。

入管が推奨する「外国人監視アプリ」

―― 入管は五輪に向けて「社会に不安を与える外国人」を排除するために、どういう取り組みをしているのですか。 望月 近年、不法滞在者の増加に伴って在留カードの偽造や不法就労が拡大しています。それをうけて、入管は昨年12月に在留カードの真偽を確認できる「在留カード等読取アプリケーション」をホームページ上で無料配布し、ツイッター等で一般市民に向けて周知しています。  このアプリは正規滞在者も含めて在日外国人全員を対象とするもので、誰でも入手して利用することができます。つまり、その実体は「外国人監視アプリ」なのです。 入管は、このアプリはあくまでも在留カードの偽造や不法就労の助長を防止するもので、在留カードの確認は任意だと説明しています。それならば、入管と事業主の間で在留カードを確認できる仕組みを作るだけでいいはずです。何も一般市民に無料配布する必要はない。  このアプリが第三者に乱用されれば、一般市民が恣意的に外国人を〝職質〟したり、外国人を取り締まる〝自警団〟が生まれたりする恐れがあります。しかし、こうした乱用に対する歯止めは何もないのです。  2019年の時点で中長期の正規滞在者は262万636人です。一方、偽造在留カードの検挙数は748件です。ざっくりいえば、数百件程度の偽造を取り締まるために260万人以上を監視対象にするということです。これでは全ての在日外国人を「不法滞在者予備軍」として扱うことになり、社会の分断を助長します。  こうした問題点について、私は入管の君塚宏元警備課長(現・在留管理支援部長)や上川陽子法相に質問していますが、あまりに鈍感です。君塚氏には「こんなことを言ってきたのは貴女が初めてです」と嫌味を言われましたが、自分や家族が海外で同じ目に遭っても平気なのか。  こうした鈍感さは政府に限りません。新聞記者の中からも「不法滞在者は犯罪者だから取り締まるべきだ。何も問題はない」「お前は考えすぎだ。被害妄想だ」などと批判をうけることがあります。  確かに政府の人権意識は低い。しかし、それを追及すべきメディアの人権意識も低いのです。その結果、日本では外国人の人権が踏みにじられる状況が続いているのではないか。政府はもちろん、私たちメディアの責任も大きいと思います。 ―― 東京五輪が近づくにつれて、むしろ外国人の人権問題が噴出しています。 望月 オリンピックは難民問題や人権問題に光が当てられる場であり、東京五輪でも難民選手団が出場する予定になっています。  ところが、政府は欧米の1000分の1にすぎない日本の難民認定の現状を改善するどころか、強制送還のハードルを下げる入管法改正案でさらに難民問題を悪化させようとしたのです。  今年3月にはスリランカ人の女性ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で長期収容を強いられた末、適切な医療がうけられず33歳で亡くなりました。5月にはウィシュマさんの遺族が来日しましたが、入管からはまともな説明がうけられず、不信感を募らせています。政府はこの状況で五輪を開催して、スリランカの選手団を笑顔で迎えるつもりなのか。信じられません。  政府は東京五輪に向けて外国人の人権を尊重するどころか、逆に侵害している。こんな政府に東京五輪を開く資格はありません。
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なぜ日本のメディアは五輪ゴリ押しを批判できないのか?
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月刊日本2021年7月号

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