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浅草・伝法通り商店街を「不法占拠」と言い張る台東区の目論み

地代を払う用意はあるが台東区は立ち退きの一点張り

 
浅草・伝法院通り商店街院

屋台から始まったという浅草・伝法院通り商店街。雑多な感じが雰囲気を醸しだしていると人気なのだが……

 こうした経緯があったため、商栄会では台東区に感謝の気持ちを持ち続け伝法院通りの舗装を整備する時にも寄付を惜しまなかった。もし台東区が地代を払うことを求めれば応じる意思はある。しかし、台東区は地代の支払いを求めるわけでもなく立ち退きの一点張り。話し合いにも応じる気配はない。  これまで台東区は一度もまっとうに交渉を行ってはいない。2014年頃から立ち退きを求める動きが出て以降、台東区は一方的な通告や説明を読み上げるだけで「話し合いを行った」とカウントしているという。  台東区の担当部署である道路管理課も、問題が持ち上がってから課長は何度も人事異動で入れ替わっているが商栄会側の話し合いを求める声は引き継がれず「立ち退け」の一点張りである。  さらに、台東区側は弁護士を立てて直接の交渉を拒否する姿勢を見せている。それでも、商栄会側は話し合いを求めているが、最近は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に逃げの一手だという。

退去させて“オシャレ”な浅草に!?

 今回の取材で見えて来たのは「資料がない」として不法占拠だという台東区の主張が、実はほころびだらけなことである。台東区は、既に44年も前のこと、重要な当事者である内山区長も故人となった今では不法占拠で押し通せると目論んだのかもしれない。  しかし、当時のことを記憶している人はまだ数多く存命している。なにより浅草の街で「あそこは、地代も払っていない」と悪し様にいう人は、まずいない。露店だった時代から、長らく地域に根付いてきたことは誰もが知っているのだ。  そうした事情を知っていながら、台東区が強行に立ち退きを求める理由は判然としない。ただ、浅草では、これまで浅草らしさを支えてきた雑多でちょっと怪しげな雰囲気を取り払い、観光客が喜びそうな日本文化を感じる施設や鎌倉の小町通りのような小洒落た食べ歩きが出来るものを売る店舗を中心の街並みにしたいと目論む勢力もあるらしい。浅草の持ち味を消して、インバウンド需要のありそうな施設を建設して稼ごうと考えているのだとしたら、あまりに愚かである。  西林会長は「複数の地元の人から、こんな話があったのですが……」とある噂を語ってくれたが、それとて噂の域を出ていない。  存続に向けて今年5月から商栄会では署名活動も始めた。ゴールデンウィーク以降は土日のみ、かつ直筆署名を集めているだけなのだが、既に1万筆を超えているという。小洒落た感じもなく真に浅草の雰囲気を味わえる、この一角を支持する人は意外に多いようだ。台東区には猛省が求められる。 取材・文/昼間たかし
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』
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