ニュース

赤木ファイル、公文書改ざんは万死に値する<元衆議院議員・福島伸享氏>

真相解明のチャンスを自ら捨てた野党

―― 森友問題の真相はどうしたら解明できますか。 福島 トゥー・レイトだと思います。いまさら国会の場で森友問題を追及しても真相を明らかにすることはできません。野党が政府に資料を出させるためには、予算成立を担保にして「資料を出さなければ、期限までに予算を通さない」と交渉するしかありません。  しかし安倍総理が進退を懸けた2017年から2021年までの5年間、野党は一貫して期限内に予算を通してきたのです。自身の進退を懸けた安倍総理もすでに辞任しています。もはや手遅れです。 ―― なぜ野党は予算審議を止めてでも資料を出させようとしなかったのですか。 福島 当時の野党には国会審議を通じて本気で安倍政権を倒すという度胸も覚悟もなかったということです。「野党はスキャンダル追及ばかりだ」と批判されますが、総理大臣のスキャンダルを追及するなどという大きな返り血を浴びるようなことをやる度胸はなかった。だから野党は震え上がって及び腰になってしまったのです。  ここで日付に注目してください。2月16日のメールでは「これを理由に福島議員が予算を止めるのは勘弁してほしい」と記されていました。財務省はこれを恐れていたのですから、予算審議を止めれば資料を出さざるを得なかったでしょう。しかし、民進党国対はそうした戦術はとりませんでした。  2月26日のメールで財務省は改ざんの指示を出しましたが、その翌日に私は再び予算委員会で質問に立ちました。2月中に衆議院で予算案が可決すれば、憲法の規定で参議院の審議のいかんに関わらず予算案は年度内に成立します。この日が、年度内に予算案を通すギリギリのタイミングなのです。  本来ならば、野党はこの時点で「資料を出さない限り、予算の採決には応じない」と強硬策に出るべきだったのです。総理が進退を懸けた問題である以上、政府が資料を出して総理の潔白が証明されない限り、予算を成立させないというのは当然のことです。  だからこそ、私は2月27日に国会で質問に立った時、森友問題を追及した上で「きょう採決することなく、この問題に関する集中審議を開くよう」求めたのです。  しかし、その時もうすでに与野党の国対で握っていて、午後には衆議院予算委員会で予算を採決することを認めてしまっていた。その結果、年度内の予算成立が確定して、政府は参議院でも資料をなかなか出そうとしなくなりました。当時の野党は与党と妥協して、自ら森友問題の真相を解明する最大のチャンスを捨てたのです。

「吏道」を廃れさせた安倍・菅政権

―― たとえ真相が解明できないとしても、公文書改ざんが重大事件である事実は変わりません。 福島 公文書は国家の歴史そのものです。決裁が終わって保管庫に置かれた瞬間、公文書は官僚や政府のものではなく国民の財産になります。現在の国民だけではなく過去や未来の国民にとっての財産になるのです。  戦前の時代は公文書を最終的に決済するのは、天皇陛下が直々に任免を認める認証官の仕事でした。戦前の官僚は天皇の代理として、御名御璽の代わりに決裁を行っていたのです。この精神は今も変わっていません。天皇は「おおきみ」というように「公」の象徴です。だから戦前も戦後も、日本の官僚は天皇に象徴される「公」に仕える存在であり、それゆえ公文書の決裁とはそれほど重いことなのです。  だから公文書を改ざんするとは、天皇に象徴される「公」を裏切り、官僚としての存在意義を否定する自殺行為です。だからこそ、赤木さんは公文書の改ざんは「死に値する」と思い詰め、自ら命を絶たれたのでしょう。「どうしてそんなことで死んでしまうのか」というような声もありますが、「吏道」とはそういうものなのだと思います。  天皇に象徴される「公」に仕えるべき官僚を、権力者の私的な都合で使役した、それによって「吏道」を廃れさせた。それが安倍政権の最も重い罪だと思います。  私が森友問題を調べるきっかけになったのも、若手官僚からの悲鳴でした。私のもとには複数の省の若手官僚から「昭恵夫人からの無理難題に困っている」という声が寄せられ、中には昭恵夫人から直接電話で無理難題の要求をされた官僚もいました。  安倍・菅政権に一貫する問題は、公私の区別がなく、それゆえ「公」に仕えるという自覚もない人間が「公」を司る立場に就いているということです。だからこそ、総理の周辺から森友・加計・桜、東北新社など公私を混同したスキャンダルが絶えない。私はこういう本質的な問題を提起するために、森友問題の質疑に立ったのです。
次のページ
天皇陛下一人に「公」を背負わせてはならない
1
2
3
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

記事一覧へ


gekkannipponlogo-300x93

月刊日本2021年8月号

【特集1】東京五輪 敗戦の歴史に学ばない日本
【特集2】立花隆研究 「知の巨人」の虚像
【特別インタビュー】菅総理は「君側の奸」だ(元衆議院議員 亀井静香)、赤木ファイル 万死に値する公文書改ざん(元衆議院議員 福島伸享)


おすすめ記事