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ラブホがコロナ禍を経て「最強の宿泊施設になった」3つの理由/文筆家・古谷経衡

ラブホに「予約して泊まる」という新概念

ラブホ 情事

写真はイメージです

 また2020年におけるコロナ禍第一撃による営業不振への対策として、この間ラブホテル業界は積極的な予約受付を可能とする営業努力を徹底した。ラブホテルはアベックによる刹那的利用が主力であるから、当日のアベックの判断によって入室するか否かがその瞬間に決定される傾向にあるので、物件側にとって予約は無意味が強く、よってこれを受け付けない方針が主力であった。  予約受付は、つまるところ「不泊」のリスクが強く共存し、仮に室を確保しておきながら「不泊」となった場合は、その部分の損失により客室回転率が落ちる。これがあるためラブホテルは伝統的に予約受付にネガティブであったが、コロナ禍による客足の鈍化を経験してコロナ禍3年目を迎えた現在、「不泊」のリスクを併呑しても、予約受付を可とする物件が非常に増えた。これまで、ラブホテルは予約できないという既成観念があったが、繁華街・IC(インターチェンジ周辺)・地方を問わず予約受付をする物件が激増したため、「ラブホテルは予約して泊る」という概念が客側に根付いた。  よく考えれば、これはコペルニクス的転換であると言えよう。アベックが夜の街をさまよう中で、刹那的決定によってラブホテルに入室するというパターンは現在にあっても濃厚であるものの、よく考えれば或る程度情交を重ねた交際期間濃密のアベックであれば、「行きつけの宿」は入室前に概ね相互に諒解され、当然それは実質的には事前決定されているのであり、予約への需要は潜在的にコロナ禍以前から高かったのである。コロナ禍による苦境を経て、ラブホテル側が予約受付を激増させたことにより、却ってラブホテルは「定期的にその物件に泊まる固定客」の需要に安定的に応えられるようになり、メリットの方が大きいと言えたのである。隠された需要に、コロナ禍が皮肉なことフォーカスしたのである。さらにこれがコロナ禍3年目にあって、ラブホテル利用に対する大きな観念の変化であると言えよう。  これに伴い、我が国最大のラブホテル掲載サイト、「ハッピーホテル」(通称ハピホテ)との更なる提携が、ラブホテル各物件間で相互的に醸成され、該「ハッピーホテル」に登録した会員における宿泊等についての宿泊ポイント等付与額が大幅に増大されたことが、若年・中年のリピーター層に対する訴求をより大きくした。

コロナ禍以前から続いている客室の近代化

 第三は、無論ラブホテル側の経営努力の延長としての客室近代化である。バブル期前後に隆盛した回転ベッド、天井鏡、旧態依然とした温度指定のできないバスルーム等は既にコロナ禍以前から近代化改装がなされ姿を消していったが、コロナ禍に於いての客足鈍化に危機感を覚えたラブホテル側は、さらにこの改装意欲を増進させ、コロナ不況下にあっても積極的な客室近代化を実行した。  具体的には、ジャグジー機能を備えたバスタブの改装、空調設備類(空気清浄機等)の刷新、天幕を備えたベッド周辺の改装、無料朝食・アメニティ等の更なる充実、無料ウェルカムドリンク(アルコール類を含む)の拡大等々である。これらによって既にコロナ禍前からビジネス・シティホテルより優越していたラブホテルの客室環境はますます充実する結果となり、「ラブホテルはいたってCP(コストパフォーマンス)が良い」という認識が客側に頒布されることになった。  大きな融資を必要とする大規模な室内近代化ではない場合が多いものの、微細なサービス精度の向上を絶えず心がけたことにより、コロナ禍3年目にして、多くのラブホテルの客室環境はさらに快適なものになり、これが新規リピーター層を獲得することに繋がっている。コロナ不況下での英雄的投資が、ラブホテルをさらに魅力のある宿泊施設を昇華させたのは皮肉だとはいえ、全体的には吉と出ている。  コロナ禍によって、概観すると経営努力のない物件は「悪い意味」で淘汰されたのではないか。現在生き残っているラブホテルは、コロナ禍3年を耐えた優良物件ばかりである。もはや現在の我が国におけるラブホテルは世界最高水準の快適性を兼ね備えた宿泊施設となっている。殆どの場合、どの物件に泊まっても目立った欠点というものを見つけ出す方が難しいであろう。コロナ禍はラブホテルに対して巨大なる試練を与えたが、これが却ってラブホテルを強靭にし、ビジネス・シティホテルとの競合に全然耐えうる進化をもたらしたことは否めないであろう。コロナ禍はいずれ終焉するわけであるから、コロナ禍が本格的に明けた時がラブホテル業界の面目躍如の時代となる。  ラブホテルを愛する1億人民は、最低限度1週間に1回はラブホテルに泊まり、我が国が世界に誇るラブホテルをボトムから支え、更に世界に冠たるラブホテル王国・日本の苗床の存在たらん自覚を持ち、日々ラブホテルを愛する心を忘れてはいけない。 <文/古谷経衡>
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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