カルト教団が生まれる背景に“日本人の宗教嫌い”。その理由は/僧侶・釈徹宗
安倍元首相の銃撃事件で、旧統一教会の問題が表沙汰になり、同時に、家族がカルト的な性質をもつ宗教団体に入信してしまう問題も前景化した。そこで、カルト教団に巻き込まれない心がけや、家族がハマってしまった時の対処法を、宗教学者で僧侶の釈徹宗氏に聞いた。
――旧統一教会が最初に社会問題になったのは約30〜40年程前。この時代は日本の宗教を取り巻く環境は、どのような状況だったのですか?
釈徹宗氏(以下、釈):日本の宗教状況の特徴として、どの家庭もいずれかの寺の檀家に入る寺請制度があり、「家の宗教」という考え方が、江戸時代に確立されました。これはヨーロッパに見られる、地域ごとに所属の教会がきまっている制度にも似ています。
宗教は、地域共同体を確立するための結節点として、機能していたんです。今なお、うっすらとではありますが、続いていますね。
――今でも日本人は、無宗教を自称しながらも、家族が亡くなった時などは檀家になっているお寺に葬式を頼むのが「家の宗教」の名残の一つですね。
釈:それが大きく変化したのが、ここ30〜40年です。核家族化が進むことで、家の宗教という概念が崩れ、ひとりひとりの信仰に基づいた「個人の宗教」が立ち上がってきます。
家の宗教と個人の宗教のすき間、精神の空白地帯に、旧統一教会なども入り込んだ面はあるかもしれませんね。
――現在、日本人の多くは「無宗教」を自称し、宗教に普段触れない生活が中心ですが、こうした状況はカルト教団の罠に付け込まれやすい部分なのでしょうか。
釈:特定の教団を信仰していないという意味で言っている人が多いと思いますが、宗教的要素は人間の営みの中に必ず入っているものなので「宗教と関係ない」とは、誰も言い切れないんです。
宗教全体と特定の団体の信仰を混同している人は、気をつけたほうがいいですね。日本人はこのことに無自覚な人が多いと思います。
――無自覚だと、どのように危険なのでしょうか。
釈:宗教などの神秘的なものには魅力がありますが、副作用があることを知っておかないといけません。テレビなどで、スピリチュアルや心霊や占いなどを取り扱っていますが、不特定多数の人に神秘を煽るような、オカルト的なコンテンツ作りは注意が必要だと思います。
副作用を意識せずに触れ続けていると、それに引っ張られる考え方になってしまうんですよ。
――単なる偶然でも、「霊の仕業だ!」などと勘違いする心の癖がつきそうですね。
釈:カルト教団もそのことをよく知っていて、心霊ブームが起きるとそれに引っ掛けて罠を作ったりします。十数年前のスピリチュアルブームの時も、スピリチュアルの名の下に悪質なマインドコントロール事件や財産トラブルなどがありました。まあ、そういうのはいつの世にもあるのですが。
この辺りは、伝統宗教をきちんと勉強すれば、気づくことができるようになります。宗教的要素は人間の営みに欠かせませんが、取扱注意であることは間違いありません。だから、宗教リテラシーが必要なんです。
――取扱注意だから触らないようにしているのが日本人ですね。宗教リテラシーを養うには、やはり勉強が必要ですか?
釈:まずは自分の身の回りの観察です。家の近くの神社に改めて出かけたり、遊びとして出かけたお祭りがお寺の縁日なら、どんな意味があるのかを調べてみたりすることから始めると、日本人の宗教文化が見えてきて、自分の立ち位置も見えてくると思いますよ。
――そう考えると、宗教が身近にあるのに、日本人はその宗教性をスルーして暮らしていることに気がつけますね。
釈:ゲームやアニメにも宗教的な要素がたくさん入っています。例えば、男女のストーリーに「生まれ変わり」という考え方が入っていたり、仏教やギリシャ神話が使われていたりするわけです。
家の宗教から個の宗教へ
カルト教団に騙されない宗教リテラシーを
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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