ニュース

山上容疑者をテーマにした問題作、国葬当日に先行上映。監督の真意とは

「山上がやったことはテロじゃない」

 

足立正生監督

 いったいどんな映画に仕上がっているのか。9月21日の日中、足立の取材ができると連絡を受けてロフトプラスワンを訪れたところ、ラッシュをみることができた。ラッシュとは、まだ未完成の映像のことだが、筆者がみたラッシュは先行上映で用いるものだった。上映時間は50分。ここでは、上映後の幾人かの取材者を前にした、足立の言葉を筆者の取材メモから紹介したい。 「山上がやったことはテロじゃない。個人の決意をいつからテロと呼ぶようになったのだろう……」  これが「やはり、テロリストがテロを賛美する映画をつくったのではないか」という疑念に対する足立の回答だ。さらに、足立は続ける。 「私が山上を尊敬するといえばテロを尊敬すると受け止められるかも知れないが、そうではない。日々の生活の中では誰もが、山上と同じようなことを考えたことがあるはずだ。しかし、計画したり実際に行動する人はいない。それを山上は実行に移した。もちろん人を殺したのは悪い。ほかに方法もあっただろう。だったら、山上の中にあるものを一緒に見つめてみようと考えたのが、この映画なんだ」  そして、映画の中に出てくる様々な言葉について、こうも語った。 「山上は私みたいに酒や煙草でごまかすようなことをしなかった。そして行動に移した。行動する、しないの落差を埋めるものとはなんだろうと考えた。だから、映画に出てくるセリフはみんな私自身の言葉なんだ」

「もう暴力は世間にはお呼びじゃない」

 取材者には足立に政治的な見解を求める声もあった。その質問に答える中で、足立はこう切り出した。 「革命を目指して老人は敗北した。もう暴力は世間にはお呼びじゃない」と、率直に語る。ならば、いまの方法はなにかといえば「手垢にまみれ、どうしようもないものと思われている<連帯>しかない」と。  取材中、足立は時折ユーモアも交えた。常々足立は「職業は国家公務員だ」と話している。 「今は生活保護を貰って生きている」と、日々の生活を語るときだ。足立は福祉事務所で「これは私の権利だから生活保護を貰いたい」と主張したら「あなたの主張は正しい」と認められた。ところが対応した福祉事務所の職員は、こういったそうだ。 「あなたは国から保護費を貰っている国家公務員だというが、生活保護費は地方自治体の予算から出ているんですよ」  煙草を飲みながら、足立はこうオチをつけた。 「だから、地方公務員風に生きているといえば、間違いじゃない」  クランクインから僅かな期間で、上映を実現することに対して、足立は「映画なんか1ヶ月もあればできる、若松プロでは、そうやってた」という。酒と煙草を手に健康でユーモアたっぷりに暮らしていると、いざという時に動き出す瞬発力も持てるのだろうか。  ユーモアといえば、足立はこんな言葉も。 「国葬当日は、なにか意思表示にいこうと思っているんだけど、捕まるかもしれないからと、みんなに止められているんだ……」 「テロリスト」「日本赤軍」「前科者」といった色眼鏡では見えてこない、言葉であった。<取材・文/昼間たかし>
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』
1
2
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート
ハッシュタグ