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BTS・ジンの入隊発表。日本人には理解しづらい韓国人の“兵役逃れアレルギー”

BTS・JIN、入隊発表の衝撃

BTS

写真はメンバー最年長のJIN 「BTS 2023 Calendar」/Independently published

 先日、BTSのメンバー・ジンが兵役に行くことが発表された。他のメンバーも追随するため、グループは2025年まで稼働しないという。通常、韓国の男性は18歳から28歳の間に2年間の兵役に就くが、「世界的な大成功を収めたBTSの場合、免除させてもいいのでは?」という声も韓国内では大きかった。それだけにARMYと呼ばれる熱心なファンは、メンバーがリアルに軍隊(ARMY)入りすることに衝撃を受けているようだ。  ここ数年、BTSの兵役免除問題は韓国世論を二分する大問題となっていたが、正直、兵役義務のない日本人からするとピンと来ない点も多いだろう。経済的なデメリットは計り知れないのに、なぜ免除反対派が数多く存在するのか? 芸能人を2年間トレーニングしたところで実際の戦力になるのか? そもそも近代の戦争は弾道ミサイルや核兵器で大勢が決まるとされているのに、徴兵制度なんて意味があるのか? こうした疑問について、コンテンツ供給会社・JAKE社長のピョ・ジュシク氏が韓国のリアルな実情について解説してくれた。 「まず抑えておいてほしいのは、軍隊に行きたい韓国人なんていないということです。みんな嫌で嫌でしょうがないし、できるならサボりたいと思っている。その気持ちには世代差なんてなく、基本的には昔からずっと同じ状態。でも、行かざるをえないんですね。日本だと国民の3大義務として『教育』『勤労』『納税』というのがあるじゃないですか。韓国だとそれに『兵役』が加わって、国民の4大義務とか言われるんです。もう最悪ですよ。だけど、義務なので嫌でも行くしかないんです。義務を守らないと非国民になりますから。  心の底から嫌なんだけど、仕方ないから行くかと腹を括っている。それなのに行かない奴が現れると、『なんでだよ? ズルくないか?』みたいな引きずり降ろそうとする心理が働くんです。これはなにも芸能人に限ったことじゃありません。『畜生、俺たちばかり苦しい思いをさせやがって……』という負の感情がベースにあるから、兵役逃れに対する世論のバッシングは日本人がイメージできないくらい激しいんですよね」

兵役免除反対派は圧倒的に男性

 BTS兵役免除の反対派は、男女比でいうと男性が圧倒的に多い。「自分も働いていたけど、兵役に行かされた。歌手ばかり免除になるのは筋が通らない。国民なんだから平等に扱え」というわけだ。この「平等にするべき」という発想が兵役問題を語るときの根本にはある。その延長線上で、次のような声も大きくなっているという。 「女性も兵役に行かせるべきだという意見です。実際、国によっては女性も徴兵の対象になっていますしね。これも結局、『は? 男女平等の世の中なのに、女ばかりサボるのはおかしくないか?』という“道連れ根性”でしょう。『少子化で徴兵させる人数が足りないんだったら、女も軍隊に入れちゃえばいいじゃん』というわけです。もっとも韓国でもここ数年はジェンダー問題が声高に叫ばれているから、女性徴兵制の話は一朝一夕で進む話ではありませんが……」  近年は“徴兵と宗教”というテーマも意見が紛糾しているという。たとえばエホバの証人の信者は、どんな理由があったとしても人を殺すことは許されないと教義で徹底して教えられる。銃を触ることすら厳しく禁止されているほどだ。したがって敬虔な信者にしてみれば、兵役に出向くのは神の教えに背くことと同義。到底受け入れられる話ではない。 「兵役は逃げることが許されない国民の義務。だけど同時に韓国では信仰の自由も保障されている。では、どこで妥協点を見つけるのか? 結局、エホバの証人の信者は兵役に行かない代わりに刑務所に投獄され、そこで3年間を過ごすことになるわけですね。“徴兵の代わりに懲役”なんてシャレにならない。このエホバの件は裁判でもずっと争われているのですが、一事が万事こんな調子だから、とにかく韓国では兵役免除の問題は揉めやすいんです」
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BTSの世界的な活躍は免除規定にあたらない?
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出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。

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