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BTS・ジンの入隊発表。日本人には理解しづらい韓国人の“兵役逃れアレルギー”

兵役逃れがバレて社会復帰できなかった例も


 政府としても、この世論調査は大きな意味を持っていたはずだ。「こうした国民の声が挙がっている以上、BTSも軍隊に入れるしかない」という一種の免罪符を手に入れたのである。ここでさらに「もう少し待って、様子を見てみましょうか」などと言い出したら免除反対派から総スカンを食らうことは間違いないだろう。 「おそらく(所属事務所の)HYBEやJINも同じ考えだったんじゃないですか。世論調査の結果を見て、『これはもう行くしかないな』と踏ん切りがついたのでしょう。ここでゴネるよりは、2年間我慢したほうが長期的には得策だと考えるでしょうから。実際、過去には兵役逃れがバレて社会復帰できなくなった芸能人もいますし。いずれにせよ韓国人にとっては極めてデリケートな問題だから、そのへんの温度感は慎重に見極めたはずです」(ピョ氏)

「全員で平等に兵役に就くべし」という世論

 1970~80年代は現在ほど兵役が大きな問題にはなっていなかったとピョ氏は振り返る。賄賂で兵役逃れをしたり、楽な部署への配属を決める富裕層も珍しくなかったそうだ。身体障害者はもちろんだが、「身長が高すぎる/低すぎる」「体重が重すぎる/軽すぎる」といったことすら免除の対象となった。なにしろ当時の韓国はベビーブーム。若者の絶対数が多かった。そうなると軍隊側としても、その分だけ寝る場所や洋服などを用意しなくてはならない。その手配が難しいため、自宅からの“出勤制度”も導入したという(現在は廃止)。 「でも今の韓国は少子化が進んでいるから、貴重な兵役の人材を逃すわけにはいかない。だから厳しく刈り取って軍隊にブチ込む。ちょっと身長が低いくらいじゃ免除になんてなりません。70~80年代に金持ちのズルが横行したことに対する反動で、『とにかく全員が平等に兵役に就くべし!』という世論ができあがってしまったんです。世論調査でBTSに対する免除反対派の声が大きかったのも、この流れで考えれば理解しやすいはずです。『金持ちや有名人だからってサボることは許さない』という空気感なんですよ」  韓国人の“兵役逃れ”に対するアレルギー反応は想像以上に根が深いようだ。それでも「選手寿命が短い」とされる韓国のアイドル界において、キャリアをぶった切られての2年間は関係者にとっても苦渋の決断となるだろう。記事後編では、さらに踏み込んで“韓国徴兵制度の内実”と“芸能界に対する社会の声”をレポートしていく。<取材・文/小野田 衛>
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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