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BTSを待ち受ける韓国兵役のリアル「芸能部署でも煩わしい上下関係」

BTSは軍隊のどこに配属される?

BTS

BTSメンバー(写真左から)JIMIN、V、RM、SUGA、J-HOPE、JIN、JUNG KOOK
「BTS 2023 Calendar」/Independently published

 好きこのんで兵役に行きたがる韓国人なんていない。にもかかわらず兵役は国民の義務と決められているから、仕方なく2年を軍隊で費やすことになる。こうした事情があるため、韓国では“兵役逃れ”に対する「ズルい真似するな!」という批判がヒートアップしていく──。  BTSのJINが入隊を発表したことで韓国の徴兵制度が改めて注目を集めているが、この問題に関する韓国人の感情は日本人には想像できないほど複雑のようだ。こうした世論の背景について紹介した記事「BTS・ジンが入隊発表。日本人には理解しづらい韓国の“兵役逃れアレルギー”」に続き、後編ではさらに踏み込んで兵役の実態に迫っていく。まずはBTSのメンバーも配属先になると予想される芸能部署の様子について、コンテンツ供給会社・JAKE社長のピョ・ジュシク氏が解説してくれた。 「兵役に就くと、最初に4~6週間の基礎訓練を受けます。ここでは銃を構えたり整列したり、全員が同じメニューをこなしていく。その後、アンケートに答えて各々の部署に配属されるわけですけど、そこでは各自の得意な技能が活かされるんです。たとえばカメラマンだったら撮影部隊。板前だったら調理場を担当することが多い。軍隊の中は実際の社会と同じようになっているから、当然、床屋だって必要。そういうところでは美容師が活躍するんですよ。背が高くて身体がデカい人は、軍隊内の警察みたいな憲兵をやらされますし。  芸能人もそれと同じです。実社会で芸能をやっていたということで、まずは芸能部署に呼ばれるわけです。芸能部署は各部隊に出向いて、曲を歌ったり楽器を演奏したりする。お笑い芸人なんかは司会業をやることが多いかな。でも中には変わった芸能人もいて、『自分を特別扱いしないでほしい。あえて厳しい環境の中でやりたいんです』みたいにストイックな主張をすることもある。まったくもって理解に苦しみますけどね(笑)」  芸能部署の業務は、一般軍人と比較したら生ぬるい限りだという。とはいえ細かい規則はあるし、上下関係もうるさいし、なによりもキャリアが停滞してストレスが溜まる。「芸能部署だから気が楽」とは誰も受け取らないそうだ。

消えない軍隊内のイジメ問題

 そして徴兵制度を語るうえで絶対に外せないのがイジメ問題である。「陰惨で目も当てられない。男同士のセクハラも日常茶飯事」とは多くの韓国人が証言するところ。『D.P.-脱走兵追跡官-』という兵役でのイジメ問題を扱ったドラマがNetflixに存在するほどだが、ピョ氏は「実際はあのドラマよりもさらに狂っているかもしれない」と苦笑いする。 「私自身、軍隊にいた2年半(現在は2年)は毎日、意味もなく殴られていました。『意味もなく』なんてそんなことはないだろうって思うかもしれませんが、本当に理由なんて特にないんですよ。一種の習慣。訓練の一環として殴られるというのが日常になっているんです。兵役に行ったことがない日本人からすると、理不尽に感じるでしょうね。でも、軍隊ってそういうものなんです」  先輩からの陰惨なイジメに苦しめられたピョ氏だが、やがて後輩ができると自身も恨みを買うようになる。後日談となるが、兵役から戻って街の映画館で後輩の集団に出くわしたときは殺されるかと思ったという。 「これはですね、自分が先輩になるとよくわかるんですよ。大勢の後輩たちの統制を取りながら管理するには鉄拳制裁に頼るしかない。言い訳とか口答えなんてさせていたら話が前に進まないわけです。上司が黒と言ったら、白であっても黒と言う。絶対服従を徹底させなくてはいけない。 そもそも軍人を育てるのは戦争のためじゃないですか。相手は死に物狂いで自分のことを殺しに来る。そうした相手を自分の手で殺すのは生半可な覚悟じゃできないですよ。訓練をソフトにして、『納得できないなら、まぁ俺の言うことなんて聞かなくてもいいけどね』みたいな教育をしていたら、絶対そいつは戦場で逃げ出しますから」
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正常な判断ができなくなっていく
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出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。

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