その頃、父は独立のために駆けずり回っていたので、僕はたった一人で母の看病をしなくてはいけませんでした。 　抗がん剤の副作用で、体中が痛むため、ほんの数センチずつしか歩みを進められない母に付き添って、何時間も外にいました。手術直後の母を見舞いながら、病室の小さな机に参考書を広げて勉強しました。受験当日は大きな手術を控えていましたから、もちろん一人で支度をして受験会場へ出発しました。 　これは別につらい思い出ではありません。しかし、全国の受験生に対して、ハンデを負うことになるな、とも考えていました。お金もないのに、時間的な制約までついてしまうことは、やっぱり僕にとって大きな逆風でした。 　こうした中で、「どうすればもっと時間をかけずに多くの収穫を得ることができるだろうか」と考えるようになりました。全国の受験生が10の時間を使って10の成果を得るのなら、時間のない僕はきっと1の時間で10の成果を得なくてはいけません。では、どうすればこれが可能になるのか、と考えたのです。 　この時、気付いたのは「どうせ知らないことは知らないのだから、考えても無駄だ」ということでした。知らないことについて一日中悩んでも、仕方がありません。しかし、僕の知らないことでも、僕よりもっと頭がいい人なら知っているはずです。そうした人に話を聞いて調べてしまったほうが、ずっと効率よく成果を集められます。