更新日:2023年03月03日 00:11
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武藤敬司はなぜ“天才”と呼ばれ続けたのか。猪木、三沢にはない異次元の魅力

プロレスラー・武藤敬司が愛された3つの理由

 さらに三浦氏はプロレスラー・武藤敬司がここまで愛された背景には3つのポイントがあると分析する。

最後の武藤VS蝶野戦(撮影:三浦氏)

「1つ目はアントニオ猪木さんと“座標”が真逆のところにいたことが大きい。猪木さんはシュートレスリングと呼ばれる競技的な強さを押し出して人気になりましたが、武藤は新日本プロレスにいながら華やかな試合で魅せるアメリカ的ショーマンプロレスで頂点を極めた。  どこからが戦略でどこまでが天性の才覚なのかはわかりませんが、時代や会社の意思に取り込まれず、自分のベクトルを突き詰めたのが武藤ならではですよね。  とはいえ、僕も武藤さんと同じ柔道経験者なのでわかるのですがシュートも相当強い。試合の序盤にほぼ必ずグラウンドで実力を見せつけるのも彼の自信の表れだと思います」  2つ目は圧倒的な“明るさ”だ。 「武藤以外のプロレスラーは猪木さんにしてもノア創設者の三沢さんにしても、一種の“影”が人格的な深みを出していました。猪木さんはブラジル移民で苦労していましたし、三沢さんはタイガーマスクとして素顔を出せなかった苦しみがあった。  一方で武藤はあっけらかんと100%明るい“誰からも愛されてしまう陽キャ”です。写真撮影のときに大声で『俺、真ん中座っていい!?』と言っても笑って許されてしまうタイプ。  この明るさが彼のエゴイズムを単なる自己中心的な人物に収まらないよう作用していますよね」  果たして3つ目は?

武藤敬司氏(週刊SPA!2023年2月7日号より)

「時代の転換点を間違えずに象徴的な技を繰り出す嗅覚です。  80年代後半からUWF(本格的な格闘技指向のプロレス)が盛り上がり、95年にいよいよ代表格の高田延彦さんと対抗試合をするわけですが、そこで非常に古典的なプロレスの技であるドラゴンスクリューと足4の字固めで勝った。  これは単なる勝ちじゃないんです。UWF的な価値観とプロレス的な価値観がぶつかり合い、最後にプロレスが勝ったというところを世間に見せつけた。格闘技からプロレスに時代を揺り戻す象徴的な“アクション”でした」  三浦氏は兼ねてからブランディングには表現や言葉ではなく“アクション”が大事だと考えているという。 「スターバックスが落ち着けるのは広告で“落ち着けますよ”と打ち出しているからではなく、落ち着けるような椅子や空間を採用しているから。任天堂という会社が面白いのは“うちは面白いですよ”とCMを打ってるのではなく、つくるものが面白いから。  そのブランド固有の価値を認めさせるには象徴的なアクションが大事なんです。  2000年代に総合格闘技ブームがきたときも武藤は『シャイニング・ウィザード』という華麗な技を開発することで世間の目をプロレスに取り戻した。この技は華やかでありながら、非常にシンプル。誰でも出来てアレンジも効く。観ているみんなが真似をしたくなります。  しかし、この技は競技的な格闘技の試合では絶対に出来ない。あの技はものすごい発明なんです。プロレス界におけるiPhoneが開発されたようなイノベーションですよ。  武藤は必ず時代の転換点において、その時代の変化を象徴するようなアクションを起こします」
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学ぶべきは“自分を愛し抜く姿勢”
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