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将来世代のツケになる国債を増やして大丈夫なの?元日銀副総裁がわかりやすく解説

 この将来世代の消費を大きく左右するのは金利になります。国債発行時ないし償還前に、国債を発行しなかった場合よりも金利(正確には、予想実質金利)が上がると、企業は借り入れを抑制し、設備投資は減少します。これは将来の生産性の低下をもたらしますから、将来の実質GDPを減らし、将来世代の所得と消費を減らす原因になります。  それでは、第二次安倍晋三政権以降、’22年度までに発行された国債は「将来世代のツケ」になっているでしょうか。  この時期、普通国債残高は337兆円も増加しました。しかし、国債金利は上がるどころか急落し、’17年頃からはほぼ横ばいです。’22年12月末に日銀が10年国債の上限金利を0.5%に上げたため、金利はわずかに上昇しましたが、設備投資を抑制するほどのものではありません。  したがって、第二次安倍政権後に発行された国債は、これまでのところ、「将来世代へのツケ」にはなっていないのです。  もしも、日銀が金融引き締め政策に転換したら、国債金利は上昇し始めます。しかし、その場合でも、金利上昇を上回る経済成長を実現していけば、将来世代の所得が上がるため、差し引きすると、将来世代への負担にはなりません。  一方で、日銀が掲げる「2%のインフレ目標」の達成前に、国債発行と日銀の国債購入を減らしてしまうと、将来世代の国債償還に伴う税負担は減っても、経済が低成長を続けて実質賃金が上がらないという、別のより大きな負担が発生する可能性が高まります。  実際には、「前の世代が国債を発行したために、所得が減った」と知ったり、感じたりする将来世代は稀有でしょう。それは一般の人が「賃金が上がらない原因はデフレをもたらした経済政策にある」ことを理解できないのと同じです。  本当の国債負担を知るには、このような正しい経済学的分析が必要なのです。
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岩田の“異次元”処方せん
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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