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派遣切りや雇い止めは、なぜなくならない?元日銀副総裁がわかりやすく解説

私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。

派遣切りや雇い止めは、なぜなくならないの?

経済オンチの治し方

日本銀行

 コロナ禍は日本の雇用制度の欠陥を浮き彫りにしました。’23年5月の厚労省の集計では、コロナ禍の解雇など見込み労働者数は14万人を超え、その45%は非正規雇用労働者でした。ここでは、2点指摘し、改善策を示します。  第一に、日本では米国と異なり、会社都合による一時帰休(いったん退職してもらい、業績回復後に再雇用を約束する制度)に対しては、雇用保険を給付できません。日本の雇用保険は仕事を探している失業者に対して給付されるもので、再就職が内定している人には給付できないのです。  日本には、苦境に陥ったときに雇用保険から企業に支給される雇用調整助成金があります。しかし、この制度は申請時の書類と記載項目が多すぎるため、企業が利用をためらうことと、助成金が支給されるまでに時間がかかりすぎるという問題があります。コロナ禍では助成金が迅速に支給されないため、企業は従業員を解雇せざるをえない状況に追い込まれました。  しかし、一時帰休でも雇用保険が給付されるようにすると、企業は安心して解雇するようになり、雇用保険財政が破綻するリスクがあります。そこで、米国では、失業保険税を企業だけが負担しますが、その税率は解雇率が高い企業ほど高くなるように設計されています。税負担を変動させることで、会社が解雇を乱発することを防いでいるのです。
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労働者の生活を守るには
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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