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「定額減税4万円では効果がない。消費税を減税すべき」と元日銀副総裁が断言するわけ

私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。

6月から始まる4万円定額減税って意味あるの?

首相官邸ホームページ

※首相官邸ホームページより

6月から’24年分の所得税・住民税の徴収額から定額が控除されます。対象者は合計所得金額が1805万円以下の人です。減税額は納税者と同一生計配偶者、または扶養親族1人につき所得税3万円、住民税1万円で、合計4万円。家族4人世帯であれば、合計16万円が減税されます。 定額減税の目的は、賃金上昇が物価上昇に追いついていないことによる国民の負担を緩和することにあります。しかし、その緩和策は不十分と言わざるをえません。’24年4月の消費者物価は前年同月比2.5%にとどまっているとはいえ、生活を直撃する食料の上昇率は4.3%、生鮮食品に至っては9.1%です。さらに、食料と生鮮食品の前年同月比は’21年12月以降、現在まで低下したことがないため、この約2年半の上昇率は食料で15.4%、生鮮食品で20.5%にも達しています。 5月20日の経団連の発表によると、大手企業の今年の春闘での賃上げ率は5.5%で33年ぶりの高さになりましたが、’21年と比較すれば、実質賃金は下がっていることになります。大手企業がこの程度では、中小企業の実質賃金は推して知るべしです。 さらに、家計消費は’23年7−9月期から3四半期連続で前年同期比マイナスという弱々しさです。 このように考えれば、4人家族で16万円は、「もらえないよりまし」といった程度で、消費を喚起して、景気を回復させる力はありません。所得税・住民税非課税世帯には減税でなく、給付金が出ますが、これも同様です。
経済オンチの治し方

イラスト/岡田丈

今回の定額減税に似たものとして、過去には1999年度の“定率”減税がありました。これは所得税の20%減税、住民税の15%減税で、税負担の大きい世帯ほど減税額が大きくなり、今回の定額減税よりも規模が大きく、しかも’06年まで続きましたから、ある程度の景気下支え効果を発揮したと言えるでしょう。 それに対して、今回の定額減税は1年限りですから、景気対策としての効果はなく、実質賃金が物価上昇に追いつかないことによる負担を、「ちょっと軽減します」という極めて小ぶりな政策です。 デフレ完全脱却の観点から、利上げして円安を止める対策を実施できない状況ですから、今、求められているのは、それを補う積極財政です。弱々しい消費を活性化させ、物価高騰で苦しむ家計を助ける政策は、赤字国債を発行してデフレから完全脱却するまで消費減税を続けることです。 政府が消費減税に踏み切れないのは、財政再建ができなくなると考えているからでしょう。しかし、デフレ完全脱却まで消費税率を最低でも5%に切り下げれば、消費が増え、景気が回復して税収が増え、財政再建が可能になります。これはいわば、「急がば回れ」という政策です。

岩田の異次元解説

家計負担増加を補塡できないので消費減税が必要です
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数
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