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「わずか2年でスマホ事業撤退」のバルミューダフォン。強みを活かせず“失敗”に終わったわけ

体験価値という新機軸で市場を切り開く

 バルミューダはデザイン性を磨き、付加価値の高い商品開発を行いました。これこそが体験価値と呼ばれるものです。  例えば、ヒット商品にトースターがあります。パンはオーブンレンジなどで十分焼けるようになり、トースター単体の国内の販売台数は頭打ちになっていましたが、デザイン性を高めて高級トースターという分野を切り開きます。あえてトースターを買うという消費行動に繋がりました。  携帯電話事業に参入する前の2019年12月期の原価率は61.4%。売上高が同規模の家電メーカー、ツインバードの2020年2月期の原価率は71.2%です。原価率が低く、高い付加価値がついているのがわかります。  バルミューダが得意とするトーストや扇風機は、長らくデザインが同じようなものばかりで、面白味に欠けていました。そこに新たなポジションの商品を投入したことが成功の秘訣です。

機能性を度外視してデザインに振り切ったが…

 そのノウハウをスマホに流し込んだのがバルミューダフォンでした。公式ホームページでは、現在のスマホのデザインが画一的で選択肢が少なく、大きすぎて持ち運びに不便を感じたことを開発の理由に挙げています。  ディスプレイサイズは4.9インチで、サイズは69×123×13.7mm、重量は138gでした。同時期に発売されたiPhone 13のディスプレイは6.1インチ、サイズは71.5×146.7×7.6mmで重量は173gです。やや厚みがあるものの、コンパクトな設計と言えるでしょう。  手に馴染むような丸みを帯びたデザインや、光沢をなくした渋めのカラーリングが目を引きます。かつてのガラケーを彷彿とさせるもので、確かにこれまでにないデザイン性が際立っていました。  しかし、搭載されていたチップはクアルコムSnapdragon 765。これはミッドレンジの機種に搭載することを想定されたもので、高額なハイエンド向けにはSnapdragon 865がありました。電池容量も少なく、カメラの画質やスピーカーの音質も十分とは言えませんでした。機能性が度外視されていたのです。
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フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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