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夫に出す食材を「痛む寸前まで放置」してしまう妻。その心理の裏にあるものとは?

夫から期待どおりの反応が得られなかったことを、被害を受けたかのように思い込んでいた

 そしてCさんは、こう続けました。 「ある日曜日、夫が、パエリアって何? と質問したので、ざっと答えて、翌日月曜日の昼休みにレシピを調べてリストを作り、会社帰りにいろいろ買って作ったんです。作るのに一時間以上かかりました。自分でもおいしいのができたと思いました。そのとき私は夫が絶賛してほめてくれると思っていたんです。でも予想外のリアクションでガッカリしたんです」 「もしかしたらパエリアを作った労力もパエリア事自体も、何ならCさん自身も否定されたように感じちゃったのかもしれませんね」 「まさにそうです。パエリアはだめでそれを作った私もダメで、ねぎをのせるだけの納豆や焼くだけの鮭はいいんだ……と感じてしまいました。でも、実際はそうではなかったのです。夫は工場勤めで、とても疲れ切って帰るから、平日は、家に着いたらできるだけ早くご飯を食べて、すぐ寝たいという希望があるんです。ただそれだけなんです。新婚の時はその疲労を知らなかったんです。知って理解して自分が変わればよかったんですけど、その気もなかったんです。理解する気がなかったんです。  この一件で、私は決めつけました。夫は私の努力を認めないひどい人だ、と。希望に応えてパエリアを作ってやったのにって、ものすごく上から目線になり、感謝を心の中で強要し、その通りにしない夫を悪者だという色眼鏡で見ることにし、今まで続けました。そして夫の好物なんか作ってやるもんかという復讐の気持ちをしっかり握りしめ、それを椎茸を買うたびに実行していたのです。夫がその後メニューには一切コメントせずに黙って食べるようになり、余計ムキになりました」

夫を優先し、Cさん自身の好物は二の次だった理由

 それを聞いた僕はふと疑問に思い、こう聞いてみました。 「Cさん自身の好物は、二人の食卓のときに作ったりしましたか」  Cさんはビックリして言いました。 「いいえ、ほとんど作りません。自分の好物でメニューを決めるのはワガママだからしてはいけないと思っています」  僕は重ねて聞きました。 「それじゃ、パートナーが、食事のメニューに自分の好物や希望を言うのもワガママですか?」 「えっ…あっ、そうですね、今わかりました、好物や希望を言うのはワガママなんだろうと思ってます……でも自分は夫の期待に応えなきゃいけないと思ってて、ワガママを言う夫にアピールしてたんです。こんなに自分は我慢して頑張ってるのよって。歪んだ形で」 「どうしてそれがワガママだと思いますか?」 「そうですね……幼少期の経験が原因かも」とCさんは考えながら言いました。 「私、やや太り気味で母が食事をセーブしてました。友人が遠足に持ってくる水筒の麦茶には砂糖が入ってたけど、私は頼んでも入れてもらえませんでした。余りご飯があるけど何が食べたい、と質問されると姉はだいたい雑炊で私はチャーハン。油を使ったものが好きねえお前は。と母に言われ、責められたように感じました。何かを食べたいと言うのを表に出してはいけないこと、ワガママだと勘違いしたんです。それで結婚してからも自分の好みや希望をひたすら表に出さず抑えつけてきました」
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相手と自分のニーズの両方を尊重することで、良い関係性を作れる
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DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

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