「駐車場はガラガラに空いていたので、嫌がらせだということはすぐにわかりました。黒い車には、男性1人だけ。女性はまだ、銀行から戻っていないようでした。スマホで確認すると昼休憩の終了が間近だったため、時間を置いて戻ってくることは難しいと思ったのです」 　黒い車の男性がこちらをニラみつけるなか、どうすればいいか迷っていながらも、小夜さんは滑り込むように自分の車へ乗り込んだ。そしてすぐに、カギをロック。すると次の瞬間、黒い車から男が降りてきて、運転席の窓ガラス越しに小夜さんを睨みつけた。 「そして、『ソコ、俺が先にみつけたんやぞ？ お前のせいで、停められへんかったやろが！』と、運転席の窓ガラス越しに怒鳴ってきたのです。恐怖を感じました。カギはロックしていましたが、窓ガラスを叩き割ってきそうな勢いで本当に怖かったです」 　ドアに手を掛けたり、窓ガラスを叩いたりしてくることはなかったようだが、小夜さんは恐怖で震えるしかなかった。とにかく目を合わせないよう下を向き、必死で耐える。それしかなく、警察に通報しようとも考えたが、男の気持ちを余計に逆撫でしそうで怖かった。 「こんなことになるなら、黒い車を見つけたときに駐車場を譲っておけばよかったと後悔。このあと、どうなるんだろうと生きた心地がしませんでした。そんなときです。『何やってるの？ ごめんなさい』という女性の声が聞こえ、私は顔を上げました」 　すると、銀行での用事が終わったのか、黒い車の助手席に座っていた女性が男の腕をつかんでいる。そしてそのまま、黒い車に連れて行ってくれたのだ。その後、男性は納得がいかない様子ではあったが、エンジンをかけるとすぐに車で走り去っていったという。