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子供にいい経験をさせたいなら“逃げる”しかない。田舎と都会の絶望的な「経験格差」/猫山課長

わざと地元で働くのを避ける優良企業の社長

過去に、新規顧客開拓のためある支店に送り込まれたことがある。エリアを調査したところ、とある優良企業に対しほとんどアプローチができていないことがわかり、支店長に質問したことがある。 「支店長、なぜこのA社に営業をかけないんですか? そうとう優良先のはずですが」 「ああ、この会社の社長はほとんどこっちにいないんだ。会えないから営業が進んでいない」 「会社はここが本社ですよね? なぜいないんです?」 「この土地の経営者たちが嫌いなんだ。価値観と話があわないから。もう◯◯(隣県の大都市)でしか仕事をしないんだそうだ」 この社長の気持ちは痛いほどわかる。この土地でどれだけ経営者と交流しても未来をつかみ取れるような経験も知見も得られない。あるのは現状に貼り付けようとする古びた圧力のみだ。その一方で、都市部には意欲的な経営者がいる。力があるのなら、この地に留まる必要などない。 良質な経験を与えてくれない不毛の地においては、知らない間に都市部との「経験格差」が開いていく。その格差は田舎にいては認識できないから、格差を埋めることは実質的に不可能だ。 都市部で恵まれた環境にある者は、より高い場所をベースとすることができ、より高い場所へ飛ぶ権利を得る。インフルエンサーの息子たちは、田舎では考えられないベースを与えられている。そして帰ってこない経営者は、より高いベースを求めて田舎を切り捨てたのだ。

公立中学校から進学校に進んだ娘の言葉

環境の与える影響は大きい。それは子供にこそより顕著なのかもしれない。 私が住む田舎にも、一応「進学校」と定義される高校はある。数年前、長女がその進学校にめでたく合格した。 入学して2ヶ月たつか立たないかの頃、長女は確信めいた様子で私に語りかけてきた。 「お父さん聞いて、この学校には嫌な同級生がいないの。本当にいないの。みんないい子なの。中学校とは全然違うの」 私は「そりゃあ進学校だからね。頭のいい子が多いからそうなるよ」と答えた。 しかし、これほど残酷な答えはない。 長女が通っていた中学校は地元の公立で、この地域に私立中学校はない。よって学力によらず同年代が闇鍋のごとく放り込まれてくる。当然に、学力には大きな差が出ることになる。学力、つまり知的水準が違えば、話が合わなくなってくるのが中学生だろう。「ああこいつとはもう絡めないな」と感じたことが誰しもあるのではないだろうか。 そんな“ごった煮”の中学生活を経て、学力がある程度そろった高校へ進学した長女は、「世界にはこんなにまともな人がたくさんいる」ということを初めて経験した。そして、こんなにも穏やかに学校生活が送れることに衝撃を受けていたのだ。 しかし、これも悲しい錯覚だろう。都市部にはもっとレベルの高い進学校がある。そこにはより知的水準の高い子供たちが集まっている。長女が感激した安寧と切磋琢磨できる環境は、都市部から見れば「ごった煮にされ濁った鍋」にしか見えないのかもしれない。長女から見た中学校のように。 都市部と田舎では、子供が多くの時間を共有する「まともな階層の人々」のレベルからして違い、また選択可能な環境のレベルにも低い位置でキャップをされてしまう。
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経験格差はどんどん蓄積していく
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金融機関勤務の現役課長、46歳。本業に勤しみながら「半径5mの見え方を変えるnote作家」として執筆活動を行い、SNSで人気に。所属先金融機関では社員初の副業許可をとりつけ、不動産投資の会社も経営している。noteの投稿以外に音声プラットフォーム「voicy」でも配信を開始。初著書『銀行マンの凄すぎる掟 ―クソ環境サバイバル術』が発売中。Xアカウント (@nekoyamamanager

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